ゴールドシップを愛するファンでなくとも、多くの競馬ファンがそう感じたのではないだろうか。それほど、横山典騎手とゴールドシップは“雰囲気のある”コンビだった。
ベテランとなった奇才ジョッキーが、ついにゴールドシップの潜在能力を存分に引き出せるコミュニケーション方法を見出したように見えた。しかも、次走は連覇している宝塚記念。このコンビで、得意の条件であれば勝利は堅いのではないだろうか――。
ファンはゴールドシップを単勝1.9倍という断然の1番人気に押しあげた。ゴールドシップがGIで単勝1倍台となったのは、2年前の天皇賞(春)以来のことである。それでも、その評価は非常に妥当に思えた。新生ゴールドシップがどのような勝ち方を見せてくれるかに注目していたファンも多いのではないだろうか。スタート直後までは。
「ゲートまではおとなしかったんですけどね…」
スタートの瞬間の出来事を、今浪隆利廐務員は次のように振り返る。
「ゲートまではおとなしかったんですけどね…。中に入ってから隣でトーホウジャッカルにバタバタされて、イライラし始めてしまいました。意外と競馬場ではおとなしい馬だったんですが、あの瞬間に調教中のような荒々しさがそこで出てしまって。立ち上がって嚙みつきにいったタイミングでゲートが開いたんですが、横で『あぁ、遂にレースでやっちゃったなあ…』と思いながら見上げていました。自分にとっては見慣れた光景でしたが、ファンの方々には申し訳なかったですね」
ゴールドシップが見せつけた仁王立ちと、それに伴う大出遅れで散った馬券は、117億円に及ぶという。実況席から鳴り響いた悲鳴も、絶望的っぷりを印象付けた。あの連勝は、一体なんだったのか…。ここで仁王立ちするための伏線だったかのように、ゴールドシップは実にアッサリと単勝1倍台を裏切ったのであった。
一方で、ファンの多くが、芦毛の怪物“らしさ”として、どことなく嬉しそうに語るのも事実。それこそ、稀代の気分屋として愛されたゴールドシップの真骨頂なのかもしれない。
出遅れ15着でむしろファンを増やした、奇跡の馬による奇跡の一戦である。
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