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「奥さんの気持ちを伝える」というワイドショーの役割を訴えても

 ワイドショーは低俗である――。昔からそう喧伝され、今もネットで批判が絶えない。しかし、報道番組がカバーしきれない情報を伝える独自の役割を担っていたという。

――同じニュースでも、報道とワイドショーでは視点が違うんですね。

東海林 海洋調査船へりおすが遭難した時(1986年)、艦長の消息がわからなかった。奥さんはご主人の帰りを待って、海辺近くの旅館に泊まり込んでいると聞いたの。調査船が沈んだニュースは報道番組が伝える。だけど、奥さんの話までは深く掘り下げないでしょ。

引き上げられた「へりおす」(国土交通省HPより)

――ワイドショーの視聴者は女性中心でしたから、妻の気持ちを知りたいですよね。

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東海林 だから、調査船の記者会見に行ったの。読売や朝日の新聞記者が受付で名刺を渡して、中に入っていった。私の番になって「レポーターの東海林です」と挨拶したら、「低俗なワイドショーの名刺はいらない」って言われたの。新聞記者が何人もいる前でよ。

©️文藝春秋

――相手はどんな表情をしていましたか。

東海林 偉そうな態度だったわ。未だに覚えてる。「何をおっしゃってるんですか?」と言い返したの。「船が沈んだことは報道番組で取り上げます。だけど、その艦長を待っている奥さんの気持ちを伝えることも大事です。それがワイドショーの役割なんです」って。

――反応は?

東海林 「いらない」の一点張り。頭に来てね、「結構です」と走って帰ったの。そしたら、有刺鉄線に引っ掛かってコケたのよ。余計悔しくなった(笑)。

 同じテレビでも報道局は記者クラブに入っているため、警察発表などがいち早く流れてくる。だが、情報制作局のワイドショーは未加入のため、思うように情報が取れない。その境遇が東海林の反骨心をさらに燃やした。

「東海林さんなら話しますよ」と言ってくれた被害者家族

――1988年、東京・埼玉で起こった連続幼女誘拐殺人事件では、被害者の母親から独占インタビューを取っていましたね。

東海林 まだ犯人が捕まる前、ご自宅に何回も通っているうちに「東海林さんなら話しますよ」と言ってくれたの。ちょうどその頃、取材の殺到を避けるため、マスコミ各社が報道協定を結んで、1社だけの代表取材を始めていた。報道局に「インタビューを取り付けました」と伝えたら、「こっちが仕切ってるから」と素っ気なく返された。「今日はフジテレビの当番だから、報道局が取材に行く」と言われたの。理不尽に感じたから、「なんでワイドショーにやらせてくれないんですか?」と反論した。結局、私が行きました。

©️文藝春秋

――なぜ、インタビューを取れたと思いますか。

東海林 同じ母親として気持ちが通じたんでしょうね。周りは「いろんな貢物をしたからだ」と陰口を叩いていたみたい。クリスマスの時、サンタクロースの足の形をしたキャンディをプレゼントしたんですよ。「ドアは開けなくていいです。取っ手に掛けますから」と置いて帰ったの。その1回しか上げてないのにね。