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被害者には苦しい気持ちを吐き出すべき理由がある

「被害者にマイクを向けるなんて非常識だ」という意見がある。だが、東海林は自らの経験から、ある信念を持っていた。

――「不幸があると、レポーターはすぐに飛んでいく」と言われます。

東海林 表向きそう見られるのは仕方ない。でも、いろんな裁判を見ていて、被害者が辛さをアピールしないと、不利な判決が下るとわかったの。裁判官がテレビを見ているかもしれないから、カメラの前で感情を吐き出したほうがいい。「被害者の母親はこんなに悲しんだ」と少しでもわからせたいと思ったんです。

©️文藝春秋

――そのような意図があったんですね。

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東海林 事件から初公判まで数ヶ月以上あるでしょ。その間にね、「仕方ないかな」と怒りの感情は徐々に静まっていく。しかも、裁判は粛々と進むから「私が我慢しとけばいいかな」と思っちゃうの。

――気持ちがどんどん薄まっていくと。

東海林 そうそう。自分を慰めて、納得させる方向に行っちゃう。だけど、それはダメだと思ってる。苦しい気持ちは、その時に吐き出さないと後からは出てこなくなるのよ。だから、インタビューする時には「このまま黙っていたら、いつの間にか忘れられますよ。一言でもいいから『悔しい』とかおっしゃったほうがいいですよ」と語りかけていた。「法廷に出たら『犯人許せません!!』とかなんでもいいから、ハッキリ主張しなきゃダメですよ」とも言っていました。

――毎日のように修羅場に立ち会って、辛くなりませんでしたか。

東海林 ほとんどのレポーターは、事件を嫌がるのよ。時間が掛かるし、何時に終わるかもわからないから。だけど、私はすごく興味を持った。現実に引き付けられたのかな。

©️文藝春秋

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 殺人事件を起こした子供の母親が吐露した本音、加害者の自宅直撃での殴打未遂騒動、昭和のテレビでも放送できない衰弱した少女との遭遇……東海林はフィクションでも書けないような想像を絶する体験をしていく。(後編に続く)

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