文春オンライン
「地獄のような事件だった」レジェンドレポーター・東海林のり子(89)だけが見た“放送禁止の修羅場”《餓死寸前でガリガリの幼女、親に鎖で繋がれ足の肉がほぼない男の子…》

「地獄のような事件だった」レジェンドレポーター・東海林のり子(89)だけが見た“放送禁止の修羅場”《餓死寸前でガリガリの幼女、親に鎖で繋がれ足の肉がほぼない男の子…》

東海林のり子インタビュー #2

2023/05/30
note

私だけが見た“放送禁止の現場”

東海林 長男は戸籍を登録して中学校に通うようになった。女の子は養護施設に入ったから、取材に行ったの。本当は見せちゃいけないと思うんだけど、施設長が会わせてくれた。命は助かったけど、当時のテレビでも流せないほどガリガリに痩せていた。地獄のような事件だった。私だけが見た“放送禁止の現場”かもしれない。

 生涯でおよそ4000件もの現場に赴いた東海林は取材を重ねるうちに、刑事のような勘を身につけた。

――ある程度の情報は入るとしても、事件現場はどのように特定したのですか。

東海林 徐々に、事件の起こりそうな家の雰囲気がわかるようになったの。子供が虐殺された家に行くと、庭に小さなサンダルが散らばっていたり、ブランコが壊れていたりしている。息子がアルコール依存症のお父さんを殺した事件では、外から家の中をのぞくと、台所に焼酎やビールの瓶が何本も置かれていた。毎週、違う事件を追うんだけど、やっぱり共通点があるのよ。

ADVERTISEMENT

――蓄積された経験から勘が生まれたんですね。

東海林 お母さんが子供の教師と不倫して、最終的にその男性を殺した事件があった。女性の住んでいる団地がわかって、車で向かったの。現場に着いたら、ディレクターが「部屋がたくさんあり過ぎて、見当もつきませんね」って言うの。でもよく見たら、一番上の端のベランダのアロエが枯れている。洗濯物のシャツは縮まって埃だらけになってる。「ここよ!」って言ったの。そしたら、当たってた(笑)。

©️文藝春秋

――今までの取材がモノをいったんですね。

東海林 たぶん、刑事さんたちも同じように学んでいくんだろうなと思った。世田谷で子供が家で鎖に繋がれている事件があった。付近に行った途端、どの家かすぐにわかった。道が両脇にあって、V字型の家があった。窓が3つあったけど、全部小さくて空気の抜けが悪い。「ここだな」とピンと来た。

「実体験って忘れないのね」

――なぜ、親は子供を鎖に繋いだんですか。

東海林 血の繋がっていない母親が男の子にご飯を作ってあげなかった。だから、子供は毎日のようにコンビニでおにぎりを買って食べていたの。父親と母親がそのことに怒って、二段ベッドの下に鎖で繋いだ。救出されたら、足の肉がほとんどない状態だった。

――残酷な事件ですね。

東海林 近所の人に聞いたら、「あの奥さんは毎日、薔薇に水を上げていますよ」と言うの。繕ってたのよね。家で凶悪な犯罪をしながら、外で優しいお母さんを演じていた。細かい行動に人間の心理って現れるのよ。

――克明に覚えていらっしゃいますね。

東海林 実体験って忘れないのよね。毎日、そんな勢いで仕事していたから疲れなかった。昼から現場に行って、深夜に局でVTRの構成を相談して、家に帰ると3時ぐらい。7時には会社に行かないといけない。でもね、興奮状態だから眠くないの。

関連記事