20年にわたり安倍晋三氏を取材してきた、元NHK記者の岩田明子氏。このたび上梓した『安倍晋三実録』(文藝春秋)では、安倍氏の肉声を記録した膨大な取材メモから、その実像を描いている。

 ここでは本書を一部抜粋して紹介。1987年にお見合い結婚をし、30年以上を共に過ごしてきた安倍晋三・昭恵夫妻。安倍氏が語っていた、昭恵夫人への本音とは――。(全2回の1回目/続きを読む

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 2022年7月12日、増上寺で営まれた安倍の葬儀の喪主を務めた昭恵は、涙ながらにこう挨拶した。

「あんまりにも突然のことで、わたくしもまだ夢を見ているような、そんな気がしています。あの朝は安倍の母のところで一緒に朝食をとって、そして8時頃『行ってきます』と元気に家を出ていきました」

 11時半頃に銃撃の一報を受けると、昭恵はすぐに奈良県の病院に向かい、午後5時少し前に安倍に面会することができたという。

「主人の顔を見ると、なんだか笑っているような、穏やかな顔で、手を握ると、そして、わたしが耳元で声を掛けると、ほんの少しだけ手を握り返してくれたような気がいたしました。わたしのことをきっと待っててくれたんだろうなというふうに思い、そしてそれまで何時間も心臓マッサージをしていた先生に、『もう結構です』というふうに言いまして、(午後)5時3分に息を引き取ることになりました」

お見合い結婚だった安倍夫妻

 1987年に安倍と昭恵はお見合い結婚をし、30年以上の夫婦生活を送った。とりわけ第2次安倍政権の頃には、昭恵に対して様々な憶測が飛んだ。

 彼女の「反原発」「反防潮堤」などの主張を見て「家庭内野党」と評する人もいれば、第2次政権発足直前の2012年10月に昭恵が東京・神田でオープンした居酒屋「UZU」の経営について、「ファーストレディらしくない」と批判する声もあった。

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 では、安倍は妻のことをどう見ていたのか。

 2013年の11月21日、「いい夫婦の日」の前日にツイッター上で安倍は〈「家庭の幸福は、妻への降伏。」これが我が家の夫婦円満の秘訣です〉と冗談めかして投稿している。実際に私が取材する中でも、安倍が妻への感謝を口にする場面は何度もあった。