場所は、山下公園のすぐそばの今は閉鎖されたシルクホテルだ。一九八二年まで現在のシルクセンターの上階にあり、ホテルニューグランドと並び称されたという。その庭に、全国の港湾幹部たちが一堂に会した写真だった。藤木幸太郎氏は全国の港湾事業者のトップだ。
写真の登場人物はそれだけでは終わらない。右横の人物を指して、「こっちは、阿部重作。住吉会の会長」。今の時代では理解しがたいが、山口組の組長と住吉一家の元総長が横一列に並ぶ。
「一緒にいるんだよ。仲いいんだよ。喧嘩してるのは下っ端だもの、いつも。親分同士は、喧嘩しないもの」
貴重な歴史の一場面だ。この一枚から、港の背景を紐解くことができる。
カメラを回して再度聞いた。カメラがあろうと話は変わらない。余談だが、組組織の行動原理にまで解説は及んだ。
「ヤクザは景気が良いと喧嘩が多くなる」そのワケは…
「景気のいい時には喧嘩が多いの。景気が悪くなると喧嘩しないの。何でか分かる? 喧嘩になると懲役に行くから。懲役に行くと(家族の)面倒見る金がないから。喧嘩するなよ、喧嘩するなよということは、懲役に行くやつ出すなよということなの。景気がいい時は、お前の女房を死ぬまで面倒を見てやるから、堂々とやってこい、と命令が出せるんだ」
「住吉会は東京都の予算と一緒で金があるんだよ。だから役員何人置いたって全然、固定資産税がばんばん入って来るから。他のヤクザよりぴんぴんしてるから違うんだろうね」
山口組を起こした山口春吉氏は、神戸港の荷役から始まり、労働者たちを束ねる組を持つ。沖仲士の仕事は過酷で、集まってくるのは荒くれ者たち。喧嘩も絶えない。その中で親分子分の関係ができてくる。住吉一家の阿部重作氏も港の荷役から始まっている。