スマホのアルバムには大量のポルノ女優の写真が
レオンはTシャツにロングパンツというラフな出立ちで、片手でスマホを操作し、アプリの偽アカウントの作り方を実演して見せてくれた。インスタグラムから容姿端麗な欧米人の写真をスクショし、それをトリミングしてプロフィールに貼り付ける。実に慣れた手つきだ。側で見ている私が声を上げて驚くと、彼は真っ白い歯を見せてくすくす笑う。その無邪気な表情からは、「犯罪者」の片鱗も感じられない。ただの1人の若者だ。
ヤフーボーイ(編集部注:ロマンス詐欺など色々な詐欺をはたらく外国人のこと。ナイジェリアでインターネットの普及に伴い、ヤフーメールを用いた詐欺が横行したことが名称の由来)たちは、国際ロマンス詐欺のことを英語で「デイティング」と呼ぶ。詐欺の標的とする相手のことは「クライアント」である。日本では「被害者」だが、彼らからすると、お金を貢いでくれる「お客さん」という認識なのだ。後述するが、こうした言葉の捉え方の違いが、ロマンス詐欺に対する罪の意識にも影響している。
レオンは米国人女性になりすまし、米国人男性を相手にロマンス詐欺を繰り返していた。インスタグラムからポルノ女優の写真をダウンロードし、それをプロフィールに貼り付けてフェイスブックなどの偽アカウントを作る。スマホのアルバムには、ポルノ女優の写真が大量に保存されていた。下着姿のブロンドヘアの女性、誕生日ケーキを手に舌を出す妖艶な女性、股を開いて正面を見つめる全裸の女性……。スクリーンに映し出されているだけでざっと数十枚はある。
ポルノ女優だけでなく、レオンはSNS上のインフルエンサーの写真や動画を悪用し、そのフォロワーやファンを狙う「セレブリティー」と呼ばれる手口についても明かした。フォロワーの多い有名人になりすますのは、彼らが毎日のように写真や動画を投稿しているため、被害者に送る「素材」に困らないからだ。バレるリスクも高い分、詐欺犯にも「メリット」があるのだ。
巧妙な手口に思わず感心
他に興味深かったのは、クライアントの探し方である。たとえば、と前置きをしてレオンが説明してくれた。
「トランプ前大統領の支持者らで作るグループの参加者に片っ端から友達申請し、『How are you?』とメッセージを送るんだ。対象は60代以上のお年寄りの男性です。なぜなら高齢者は若い人に比べ、SNSの事情に疎く、信じやすいからです」 日本で言う「情弱」(情報弱者の略)を標的にしているのだ。トランプ前大統領の支持者はあくまでたとえで、要するに参加者が大量に集まっていそうな政治団体やニュースの媒体、特定のグループなどに照準を絞り、そこでコメントを書き込んでいるアクティブな参加者を中心にメッセージを送るのである。
「まあ10人送って反応があるのは3~4人です。それでやり取りが続けばグーグルチャットに移行します」