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「アフリカ人の奴隷商人が近くのマーケットから奴隷を調達し、この建物に連れてきます。奴隷たちは10人でアルコール飲料、40人で傘、100人で大砲などと引き換えられ、3ヶ月ごとに1600人がブラジルへ連れて行かれました」 

 40人の奴隷が収容されていたという部屋は、わずか5~6畳ほどしかない密室だった。天井近くに小さな通気孔が1つだけあったが、さぞ息苦しかったに違いない。奴隷をつなぎ留める手錠、首輪、罰を与えられた奴隷の絵や当時の様子を示す書類なども展示されている。ダミが続ける。 

「彼らには水も1日に1回しか与えられませんでした。奴隷には少数ですが女性や子供もいました。この収容所で船が来るのを待っていたのです。ここを出発し、ブラジルに渡ると、サトウキビ畑で働かされました」 

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出航直前に告げる別れの言葉

 博物館の近くにある桟橋からエンジンボートに乗り、川を渡って対岸のクベレフ島へ着いた。一度出発したら二度と戻って来られないことから、「ポイント・オブ・ノー・リターン」と呼ばれている場所だ。炎天下、砂道を数十分ほど歩くと、右手に井戸が現れた。当時、中に入っているのは「神聖な水」とされ、飲むと攻撃性を弱め、記憶がなくなると信じられていた。出航直前、奴隷たちはその水を飲まされ、さらに南に下ったギニア湾へ向かった。そしてこう別れを告げて出発したと言い伝えられている。 

〈私はこの土地を去ります。私の魂も私とともに去ります。そして二度と戻ってくることはありません。(中略)知らない土地へ向かって出発します〉

 眼前に広がるギニア湾の砂浜には、波が水飛沫をあげて勢いよく打ち寄せていた。彼らはそこから小舟に乗り、途中で大きな帆船に乗り換え、目的地へと向かったのである。 

過去の歴史は犯罪を正当化するための言い訳

 ダミの説明を一通り聞いた後、アダム教授が言った。 

「今はこうした歴史は、ナイジェリアでも小学校で教えないんだ。ネガティブな感情を抱かせてしまうから、ここに来ない限りは学べないよ」 

 奴隷貿易は確かに、ナイジェリアにおける負の歴史であることは間違いない。だが、それが白人に対する報復感情によるロマンス詐欺につながるだろうか。レオンにそう問うと、迷わずこう答えた。 

「ヤフーボーイたちは皆、植民地時代の歴史を持ち出すんだけど、犯罪を正当化するための言い訳かもしれないね。奴隷貿易のことは映画で観たから知っているけど、だからと言って僕自身は特に欧米に対する嫌悪感はありません」 

 確かに奴隷貿易という過去の歴史を持ち出すのは、犯行に至る大義名分としてもっともらしく聞こえる。だが、レオンの反応を見るに、彼らもその理屈が詭弁であることに、やはり気づいていた。