思えば日本人の被害者たちも、やり取りの場を最初にアプローチのあったSNSからLINEに移していた。アプリ変更の裏には、犯人側の明確な意図があったのだ。
「フェイスブックでやり取りをしているクライアントたちの中には、僕のアカウントの動きを不審に感じる人もいます。そういう人からフェイスブック側に通報されると、アカウントが使えなくなってしまう。その結果、そのアカウントを使ってやり取りをしていたクライアントまで失ってしまう。それを避けるために、ある程度のコミュニケーションがとれた段階で別のアプリに移すのです」
手口の巧妙さに思わず感心してしまった。
口説き文句の例文
レオンがクライアントに送るメッセージには、フォーマット(例文)まで用意されていた。メッセージアプリ「Telegram」にはその共有サイトがある。その1つ、「LEGIT_YAHOO_UP DATES」には、全部で200のフォーマットが保存されている。「カナダ デート フォーマット」「グッド モーニング メッセージ」「セックス フォーマット」などと各ファイルに名称がつけられ、開いてみると口説き文句やセリフが入った英文が次々に出てきた。「グッド モーニング メッセージ」には13の例文が表示されていた。
〈普通の人は朝日が昇ると目覚めるけど、私はあなたのために目覚める。おはよう〉
〈あなたのそばで、そして腕の中で。これが毎朝目覚める時の一番良い方法よ。おはよう〉
〈この世の中は虚像と嘘にまみれている。でもあなたの瞳に映し出された愛情を感じられるだけ、私は運が良いほうよ。おはよう〉
ヤフーボーイたちはこれらの例文をコピペし、あるいは自分流にアレンジしてからクライアントに送信している─。それが被害者たちに送られた「愛の囁き」の正体だった。
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もちろんそれだけに留まらない。レオンが続ける。
「相手に子供がいる場合は、子供を気遣うメッセージも送るよ。そうすれば僕が相手の家族の一員になったような気になるんだ。これも僕たちに共有されている口説き方だよ」
レオンのスマホにはこんな写真も保存されていた。点滴用のカテーテルが挿入された腕、中身が空っぽの冷蔵庫、液晶割れしたスマホ……。