SNSやマッチングアプリで知り合った海外の相手を言葉巧みに騙し、金銭を詐取する「国際ロマンス詐欺」。なぜ被害者は、会ったこともない犯人に騙されてしまうのか。詐欺師たちは一体どのような手口で被害者を騙すのか……。
ここでは、ノンフィクションライターの水谷竹秀氏による『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館)の一部を抜粋し、卑劣な犯人の毒牙にかかり、4600万円を騙し取られた町田美穂さん(仮名)の被害の実情について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
4600万円失った40代シングルマザー
私が取材をした中で最も被害額が大きかったのは、4600万円を騙し取られた町田美穂(仮名、48歳)だった。彼女は「国際ロマンス詐欺被害者」というツイッターアカウント(すでに閉鎖)でこう明かしていた。
〈4600万全財産失った国際ロマンス詐欺被害者です。無一文でどうやって生きればいいの? 想像絶する壮絶な苦しみ〉
全財産とはいえ4600万円もの大金を持っていた彼女は一体、どういった人物なのか。
ダイレクトメッセージで取材を申し込むと、間もなく返信が届いた。
「取材って何を話せばいいの?」
被害者から想像できる悲壮なイメージとは裏腹な、あっけらかんとした印象を受けた。しかも取材場所に指定されたのは、美穂の自宅。都内にあるマンションの住所と彼女の本名まで記されてある。
至って普通の第一印象
初めて会う異性をいきなり自宅に呼び込むのは、他人にあまり警戒心を抱いていないように感じられる。あるいは簡単に人を信用してしまうのか。いずれにしても、美穂からの突拍子もない申し出に、逆にこちらが警戒してしまった。
そんな一抹の不安を抱きつつ、指定された住所地へと向かった。ちなみにロマンス詐欺の被害者を取材した中で、自宅を指定されたのは後にも先にも彼女だけだ。目的地のマンションに到着し、インターフォンを鳴らして4階へ上がる。エレベーターを出ると、美穂は玄関のドアを半開きにして待っていた。
ショートカットの彼女は、白いパーカーにジーンズ姿。高級腕時計などの貴金属を身につけているわけでもない。部屋は6畳ほどのワンルーム。白を基調にした内装で、中心には白いテーブル、壁際にはラックが置かれただけの実にシンプルな部屋だ。