お試しで暗号資産のサイトに登録
「相手は英語で、何をしているの? と聞いてきました。その後は、『あなたを愛している』ばかりを繰り返していて、ほとんど会話になっていませんでしたね」
この通話の後、ポールから暗号資産取引所のURLが届いた。「CICI」と呼ばれるサイトで、ネット上では詐欺を指摘する声が多く、すでに閉鎖されている。当時の美穂には、そんな事情を知る由もなかった。
「自分でビジネスをやっていたので、コロナ融資の返済もありました」
受けたコロナ融資は、日本政策金融公庫から1000万円、信用金庫から500万円の計1500万円だった。
「そんな時に暗号資産をやらないかと誘われました。売り買いのタイミングを分かっているから、指示通りにやったら大丈夫だと。最初に投資金無しのお試しでやりましょうと、サイトに登録してもらったんです」
コロナ融資の返済を控えた美穂にとって、暗号資産への投資で資産を増やすという申し出は渡りに船だった。国際ロマンス詐欺の被害者には、銀行口座への振り込みに加え、暗号資産やFXへの投資を名目として金銭を騙し取られるケースも多い。特に後者は、美穂のように相手に「本気」になっていなくても成立してしまうのだ。
2人の明るい未来予想図を描き、美穂の警戒心を解こうとする
ポールからは早速、サイトの使い方についての説明が次から次へと送られてくる。その通りにクリックし、スクリーンショットを送信し、ポールの確認を得て次のステップへ進むという流れで取引が進んでいった。気づけば、スマホの画面に映し出された金額が「5566USTD」と表示されていた。USTDは、「テザー」と呼ばれ、法定通貨である米ドルの相場と連動している暗号資産の種類である。1USTD=1ドルなので、テストとはいえ美穂は5566ドル(約60万円)を儲けた計算になる。ポールはテストを通じて射倖心を煽り、美穂をどんどん暗号資産の世界へと引きずり込む。そして2人の明るい未来予想図を描くことで、美穂の警戒心を解こうとした。
「ポールの夢は45歳までにすべての仕事を辞めて本当の富と自由を実現し、自分の大好きな美穂と一緒に世界中を旅して、自分のお金で慈善活動をし、助けを必要とする人を助けたいです。この夢を一緒に実現したいですか?」
「うん、したい。(そんな夢みたいな話は)考えたこともない。もう一生、パートナーが見つからずに1人なのかと思っていたよ。ポールは神様からのプレゼントだ」
美穂はついに現金を投入する。
LINEでやり取りを始めてからわずか5日後のことだった。