「怪我をしたり、食べ物がないと偽って、それらの写真を送るんだ」
そう言ってレオンはまたくすくす笑う。「疑似恋愛」が過熱すると、レオンのほうから「結婚しよう」とプロポーズし、婚姻証明書まで偽造して送るほど、“演出”に凝っていた。
そうして相手を完全にその気にさせ、現金を引き出す。
レオンはこれまでに米国人男性4人から現金を騙し取ったと明かした。合計1800ドル(約25万円)というが、被害者の数や金額については、どこまで正直に話をしてくれているのか微妙なところである。ロマンス詐欺以外にも、たとえば英語で「Hook up」と呼ばれる性交渉を目的にした出会いや、「Sugar Baby」という大学生との援助交際などでも現金を詐取している。それでも小遣い稼ぎ程度にしかならず、定期的に振り込んでくれる「上客」にはまだ辿り着いていない。
「お金持ちのクライアントを見つけ出すには、出会い系サイトやアプリにそれなりの投資をしなければならない。先立つものがないので、そこにお金をかけられないんです」
植民地時代の「報復」という理屈
ヤフーボーイたちがやり取りの標的にしているのは、大半が欧米諸国の白人だ。その理由を問うと、レオンはこう語った。
「アフリカはかつて、イギリスやフランスの植民地にされ、奴隷貿易が行なわれた。我々の先祖が先進国に苦しめられた恨みを晴らすために、ヤフーボーイたちは詐欺をやっているんだよ」
西欧に虐げられた苦難の過去に対する報復としてのロマンス詐欺だというのだ。
時代は遡ること15世紀。ポルトガル人が奴隷貿易の拠点とするため、西アフリカの沿岸部にラゴスを建設したことでナイジェリアの植民地化が始まった。17世紀になると、イギリスやフランス、スペインなどの欧州諸国は、新大陸等開拓のために奴隷を大量に購入し、南北アメリカや西インド諸島へ運んだ。この貿易は1834年にイギリスで奴隷制度が禁止されるまで続いた。
わずか5~6畳ほどの部屋に40人の奴隷を収容
そんな人種差別の歴史を思い起こさせる博物館が今も、ラゴス州西部の「バダグリ」という町にある。ラゴス市の中心部から西に車で2時間ほど走ったギニア湾沿いの町で、隣国ベナンまではさらに西に20キロほど。国境を越えてベナンに入国すると、公用語が英語からフランス語に変わる。フランスの旧植民地だからだ。
バダグリにある「ブラジリアン バラコン」というモルタル造りの建物は、奴隷たちが出航するまで待機させられた収容所のような場所だった。その建物に入ると、壁づたいに湯沸かし器、傘、大砲、アルコール飲料、鏡などのオブジェが展示されている。アダム教授と一緒に訪れた時のことで、ガイドのダミという青年が解説してくれた。