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金賢姫告白 捜査官との「禁断の恋」

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「鄭炳久(チョン・ビョング)です。彼は私が国家安全企画部の地下室に連行され、取り調べを受けた時の捜査官の1人です。当時、彼は29歳で、韓国に潜伏する北朝鮮の工作員を摘発する担当をしていました。まだ若かったので、私が自殺を図らないよう24時間監視したり、先輩捜査官が尋問する様子を記録する係をしていました。

 私は取り調べで、必死に中国人に成りすまそうとしました。一番心配していたのは寝言です。朝鮮語をしゃべってしまい、北朝鮮の工作員だとバレるんじゃないか、と。その様子も、旦那さんは監視していました。そうするうちに、旦那さんは誰よりも『北朝鮮工作員金賢姫』に詳しい人になっていきます」

恋心が動いた「お土産」

 1990年に死刑囚となった金賢姫だが、「北の闇を語る生き証人」として特赦を受ける。

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金賢姫 ©文藝春秋

 だが、保釈後も自由な生活とは程遠く、つねに国家安全企画部の捜査官の監視がついていた。

「旦那さんは引き続き私の担当をしていました。旦那さんを含め、私の周りにいる捜査官は、休暇の間は自由に過ごせるのでうらやましく思っていました。

 そんなとき、ある休日明けに旦那さんが『自分たちだけ休暇を取り、遊んですまないね』と言って、お土産をくれたのです。そんな人は今までいませんでした。この人は気持ちが温かいと思いました。このことで、ほかの人とは違う目で彼を見るようになりました」

――「禁断の恋」の始まりですね。

「ええ。そこで、私から旦那さんと同僚の男性捜査官に声をかけて、3人で食事をすることになりました。でも、その同僚が、気を利かせてレストランに現れず、旦那さんと2人きりで食事をすることになったのです。私には親友も友達もいない。旦那さんは、最初から私のことを一番よく知っていた、一番信頼できる人になっていたのです。事件から8年後の1995年のことです」

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