「私たちはもともと、障害者への差別をなくそうと闘ってきたはずでした。2015年から海外事例を参考にギフテッドを支援しようと特別クラスを設けたのですが、結果的に私たち自身が子どもたちに差別意識をつくってしまいました。失敗でした」
差別意識? メモを取る手が止まった。そんな重々しい答えが返ってくるとは、予想していなかった。
選抜による差別意識の表れ
翔和学園は、前身のステップアップアカデミーから改称し、06年に発足したNPO法人だ。もともとは発達障害者の就労支援をメインにしてきたが、小中学生を受け入れるフリースクールを始め、小・中・高・大学まで一貫した特別支援教育を目指してきたという。
そんななか、発達障害がある子どもの中に、高IQの子がいることに気づき始めた。学校にはなじめず、だからといって特別支援の枠にも入れない高IQの子どもたちが、不登校になり、保護者も困り果てて行き場を失っている様子が、目の前で起きていた。
そこで15年4月から、高IQの子どもたちだけを集めて教育しようと、「アカデミックギフテッドクラス」を設けて募集をした。「それまでの特別支援教育は、凸凹の欠点や苦手を克服しようという支援になりがちでした。そうではなく、強みや能力の凸(とつ)を伸ばしていくことを目指そうということで『ギフテッド教育』を始めたのです」(伊藤学園長)
その理念は今も変わっていない。だが、子どもを選抜してクラス分けしたことで、予想しなかった弊害が生じたという。
クラスに入るには、知能検査でIQが130以上あることを目安とした。同時に、取り組みたいテーマについて作文を書いたり語ったりしてもらった。審査で入園者を決めた。当初は小学生が5人ほど入園し、理系の大学院生を講師として招いたり、英語講師に来てもらったりと、幅広い教育を小学生にしてきたという。
ところが、次第にこのクラスの子どもの中に、クラス外の障害がある子どもたちへの差別意識が生じてしまったという。「俺たちは天才なんだから、障害のある子と一緒のことはしなくていい」といった感情が見てとれるようになった。
伊藤学園長は「教えるほうにも問題がありました。『君たちは天才なんだから』と特別視し、高い知能を伸ばすことに力を入れてしまったのです」と振り返る。保護者の中にも、「うちの子は発達障害ではなくギフテッドだから」と、障害の部分をきちんと直視しないままの人もいたという。