1ページ目から読む
2/4ページ目

 10年前の2013年3月3日、北海道立高校に通う悠太さんは、日曜日に部活のために登校したが、帰らぬ人となった。その前日、所属する吹奏楽部の顧問から「何のことかわかっているな?」「俺なら黙っていない」「名誉毀損で犯罪だ」などと叱責された。その上で、「誰ともしゃべるな、行事にも参加しなくていい」などと言われ、退部の選択を迫られた。悠太さんにとっては何のことかわからず、困惑するだけだった。

北海道立高校に通っていた悠太さん ©渋井哲也

「こども大綱」が議論されるタイミングで要望書を提出

 こうした指導について、札幌高裁(長谷川恭弘裁判長)の判決で、北海道への賠償請求は棄却だったものの、顧問の指導に関しては「不適切・不合理」と判断されていた。

「亡くなる前日、顧問からどんな指導をされたのかを悠太から聞きました。そのとき、私は『明日は行かなくていいんじゃない?』と言いました。しかし、悠太は、吹奏楽部が居場所で、部活に残れるように必死でした。当日も部活に参加しようと学校へ行きました。職員室前にいた目撃情報もありますが、結局、部活には参加せず、学校から出て行きました。顧問から友人関係を切り離されたのですが、他の部員も傷を残すことになりました」(同前)

ADVERTISEMENT

 今回の要望書提出は、こども家庭庁で「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」が開催され、「緊急強化プラン」が発表される前であり、「こども大綱」が議論されるタイミングだった。

©渋井哲也

要望内容について、行政側は検討することを示唆

「要望書を出すにあたっては、メンバーの中で時間をかけて話し合い、修正を重ねてきました。官僚の人たちには、私たち遺族ときちんと向き合ってほしいという気持ちがありました。私たちのような遺族が、こどもの自殺対策の中で、置いていかれているのではないかという心配もありました。官僚の人たちが向き合ってくれる場をセッティングしてくれた参議院の山田太郎議員や事務所スタッフのみなさんの頑張りも後押しでした。出しっぱなしの要望ではなく、実現できる要望書になるために、本当に時間をかけてくれました」(同前)

「考える会」としては、

(1)チャイルド・デス・レビュー(CDR、予防のための子どもの死亡検証)での全件調査と自殺の場合の原因究明
(2)子どもの自殺の実態把握と再発防止体制の整備
(3)不適切な指導に関する実態調査と教職員の研修、相談窓口の整備
(4)被害者救済のための保険制度である「日本スポーツ振興センター」(JSC)の制度見直し

 の4点について文科省やこども家庭庁に要望し、担当者に手渡した。警察庁や法務省の担当者も同席した。山田議員の同席のもとに、それぞれの担当者から説明を受けた。要望内容について、行政側は検討することを示唆。一歩前進したようだ。