「悠太のような、教員が不適切な指導をしたことによる自殺の場合、想定される仕組みでは救えません。不適切な指導をなくすしかないと思うのです」(はるかさん)

 不適切な指導をきっかけに自殺した生徒の遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」は5月29日、子どもの自殺対策や不適切な指導に関して、こども家庭庁と文部科学省に要望書を手渡した。

 この日の会見で、メンバーのうち、2人の遺族が初めて顔出しをした。呼びかけ人の一人で、北海道立高校に通っていた悠太さん(享年16)を亡くした姉のはるかさん(29)は下の名前を公表した。また、長男の碧さん(享年13)を亡くした加藤健三さん(51)も実名を公開した。碧さんが通っていた学校名も報道された。6月16日、「考える会」は、衆議院第2議員会館で「子どもを自殺・不適切指導から守ろう」という院内集会を開催する。

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 2人に名前を公表することの思いを聞いた。

実名・顔出しで指導死の実態について訴える加藤健三さん ©渋井哲也

「顔や名前を出すことに本気で悩んだ」

 インターネットの問題やいじめ・不登校・自殺の増加もあったことで、12年ぶりに教職員向けのガイドライン「生徒指導提要」が改訂されることになったことを受け、はるかさんは、同様な遺族に呼びかけ、「考える会」を結成した。要望を受けた形で、「不適切な指導が不登校や自殺のきっかけになり得る」との文言が入った。しかし、今回の記者会見に当たっては葛藤もあったという。

「まだまだ自殺には偏見があると思う。(指導は適切だったという)学校の説明を鵜呑みにしている人たちから言われてきた冷たい言葉もあり、また、自死遺族になりながらも、生きていくために仕事をしてきたので、そこに影響があったら怖い。

 一方、名前を出し、顔を出すことで本当にこの問題で苦しんでいる人がいるということが届けられると思っていました。子ども全般の命の扱われ方に向き合ってほしいと思って、『考える会』の活動をするようになってから顔や名前を出すことに漠然と悩み、本気で悩んだのはここ数ヶ月。日付が変わるたびに結論が変わっていました」(はるかさん)

記者会見に臨んだ加藤さん(左)とはるかさん(中央) ©渋井哲也

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 こどもの自殺対策は、メンタルヘルスが悪化していく中で、サインを見逃さないためのシステムづくりが主流になっている。いじめや虐待などが長期化していく中で、気持ちの変化をいかに受け止めるのかという手法だ。一方、不適切指導で自殺をする生徒の多くは、日頃は、学校では部活動などで居場所があり、活躍している人もいる。しかし、部活動や学校生活を奪われるような指導がされ、危機的な状況が一瞬にして訪れる。そうした場合は、先の手法が使えない。