実名を出したことに対し、家族や周囲の反応は
実は、前日も、碧さんに指導が行われていた。2学期の終業式で校長による年賀状の講話があった。碧さんが所属する水泳部でも年賀状に関する指導がされた。顧問は住所を部員に教えた。碧さんは、顧問が教科担任であったこともあり、クラスのグループLINEに共有した。このことが「悪意ある行動」と決めつけられた。
この指導も、報告書では「一方的で威圧的な指導」とされた。つまりは、2日間にわたって、不適切な指導がされたのだ。
「クラスのグループLINEに、部活の顧問の住所を載せたことを理由に指導されたと言います。年賀状を出すために、顧問の住所が書かれたメモを写真に取り、その住所が写っている写真を、クラスのグループLINEにも共有していました。そのメモ自体、紛失され、顧問自身の情報管理も問われるとは思いますが、顧問は『俺の住所を電話ボックスに貼ったのと同じ』などと怒鳴りながら指導していたというのです。閉じたグループLINEと、オープンなSNSとは違うとは思うのですが」(同前)
実名を出したことで、家族や周囲の反応はどうだったのか。
「家族には、実名を出すことを話していました。名前を出すことで、もし何か言われたら教えて、と言ってあります。今のところは何もないですが、近所の人にはわかってしまいますから。会社の人からは特に反応がありません。気にしていたのは自意識過剰だったのかな。ただ、応援してくれている人や、同級生の親御さん、遺族になってから知り合った人たちからは、連絡がありました」(同前)
実名報道は「ゴール」ではなく「スタートライン」にすぎない
それにしても、遺族がここまで動かないといけないのか。加藤さんは「考える会」に参加する前にも、東京都や議員などに話を聞いてもらっていたが、何も進展しなかった。
「碧が亡くなった後、詳しい話を知りたいと学校側に聞いたのです。すると、『知りたいのですか?』と言われたりしました。声をあげていなかったら、『背景調査の指針』による基本調査も、詳細調査もされなかったと思います。都の私学行政課では『(都では)何もしません』と言われてしまいました。今回は、名前と学校名が報道されたことで情報発信ができたと思いますが、学校側から謝罪があったわけでもなく、制度が変わったわけではないので、ゴールではなくスタートラインにすぎません。これからも情報発信は続けたい」(同前)
警察庁によると、2022年の児童生徒の自殺者数は、統計を取り始めて初めて500人を超えて514人。これまで、不適切指導があったことを前提にした自殺対策は想定外だった。2023年度の問題行動調査から、自殺した児童生徒が置かれた状況の中に、「体罰・不適切な指導」という項目を加える通知を出した。こども基本法の施行や、こども家庭庁の設置を受けて、ようやく、不適切な指導による不登校や自殺に、行政が目をむけ始めた。