宮本「間隔を置けということが一番の力点だと思います」
中島「それからもう一つ言われているんじゃないでしょうか」
宮本「どういうことでしょうか。ちょっと記憶にありません」
中島「“狭い雪面に、多くの荷重をかけるな、多勢の人が乗るな”というふうに言われているのを知っていますか」
宮本「ちょっと明確に覚えていませんでしたけど、書いてあるんだったらそうだと思います」
宮本は「一概には言えない」「簡単には言えない」を繰り返す
中島「あなたは、当時はそういうことは頭のなかにはなかったんですね。覚えてなかったということは」
宮本「そのことをですか――議論をするわけではありませんが、そういうふうに結びつけられると、また私は考え方が違うんです」
中島「証人は、前回の証言で、ここに人が入ったことが、雪崩を引き起こした原因の一つと残念ながら考えられるということをおっしゃっていましたね」
宮本「刺激という点では、ほかの刺激はありませんでしたから、刺激が雪崩誘発の原因になったとすれば、そういうふうに考えざるを得ないという……」
宮本の語尾が消え入りそうになった。それに続き、中島が、「狭い雪面に集団的荷重をかけた結果、雪崩が発生したのではないか」という主旨の質問を、言葉を変えて何回かくり返し尋ねた。それに対し、宮本は言いよどみながらも、「一概には言えない」「簡単には言えない」をくり返した。
傍聴席から「それじゃあ、なんなんだよ」「はっきり言えよ」という囁きがもれ、ざわついた。
「雪の安定度を見抜く力は鍛えられている」と強調
中島は、少し向きを変えて、最後に尋ねた。優しい声でゆっくりと聞いた。
「やっぱり、横一列に並ばせて集団で上がらせるよりも、離して上がらせるべきだったんじゃないですか。今から考えてみれば――やっぱりあの狭い雪面に人を並ばせて乗せたということが、負荷を与えて雪崩の原因になったんじゃないかと、今考えれば――そう思うでしょう」
その問いに宮本は次のように返答した。
「雪崩の起きた地点と訓練をやった地点が非常に離れてますし、その地形が、まっすぐストレートに来る間隔だと思いませんので、そういうふうに短絡的には思いません」
この宮本証言は、表層雪崩の遠隔誘発のメカニズムに関する無知と否定をあざやかに語っていた。さらに「日常的に高校スキー部指導によって、雪の安定度を見抜く力は鍛えられている」と強調して証言を終わってしまった。
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この日の夜、中島弁護士は、自分が「狭い雪面に6人を横一列に並べて登行させたことが雪崩の原因になったのではないか」と聞いたのに対して返ってきた宮本の答えを反芻した。