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「流産ですよ。どこに事件性があるんですか?」

 ところが予想外の事態が起きた。

 病院を出ようとした筆者がソーシャルワーカーに求められて自身と慈恵病院の関係を含む状況説明をすると、ソーシャルワーカーが「警察に通報します」と言ったのだ。

「なぜですか」筆者は聞き返した。

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「死産だからです」

 と答えたケースワーカーはごく当然の口ぶりで、「週数にもよりますが」とつけ加えた。

 蓮田氏は病院が警察に通報することを把握しているのだろうか。ユキさんは守ってもらえると思っていたのに警察に通報されたらショックを受けるだろう。

慈恵病院理事長・蓮田健氏 ©️三宅玲子

 病院を出て蓮田氏に電話をかけた。筆者の説明を聞いて蓮田氏の声色が変わるのがわかった。「病院に確認します」と蓮田氏は言い、慌ただしく電話は切れた。

 直後、今度は筆者のスマホが鳴った。覚えのない番号は新宿署の刑事だった。状況説明を求められ、その場で、大まかな経緯を話した。すると、刑事は「わかりました」と概ね理解したような反応だったが、そこで話は終わらなかった。「事件性の有無を調べる必要があるので捜査に協力してもらえませんか」と言う。驚いた。「流産ですよ。どこに事件性があるんですか?」問い返す声が大きくなった。

病院を出るとスカイツリーが目の前に見えた ©三宅玲子

彼女も自分も法律に触れているはずがない

 病院では新宿警察署刑事課強行犯捜査第一係の刑事によるユキさんへの聞き取りが始まり、筆者は警視庁機動隊の刑事の運転する車で新宿署に運ばれた。首都高の渋滞にはまり、新宿署に到着したのは午後4時前になっていた。新宿署は東京メトロ丸ノ内線西新宿駅にほとんど隣接する、四角く巨大な建物だった。

 なぜ、流産した女性と救急搬送に同行した自分が警察に取り調べられるのか。だが彼女も自分も法律に触れているはずがない。反発と好奇心が8割、予想のつかない展開への不安が2割、どうなるのだろうと思いながら、先に立って歩く刑事について建物に入った。

 受付のある1階は警棒を持った私服の警察官や制服の警察官で混雑している。受付で通常は求められるらしい身分証明書の提示を免除され、刑事に連れられてエレベーターに乗り込むと、制服を着た若い警察官の集団が、同期なのか、冗談を言い合っている。この建物で何人ぐらいが働いているのかと刑事に質問したところ、約800人だという。女性は何人ぐらいですか、と尋ねると、1割ぐらいかなとの答えだった。