「かなり将棋がお好きなんですねえ」藤井聡太の師匠がパソコンショップに行ったところ…
『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』より
店員Bさんは「将棋、藤井、高性能パソコン」などと検索しまくる
フレンドリーに対応してくれたのは店員Bさんだった。
「将棋ですか。あ、瀬戸市に凄い人いますね。フジ、ええと藤……」
「藤井ですね」
店員Bさんも、まさか私の見せたメールの一部が藤井竜王本人のものとは思うまい。なかなかにシュールである。
「もしも購入したらこんなことはできますか?」
「それはF1カーで近所のコンビニに買い物に行くようなもの(=オーバースペック)ですよ」
質問にも分かりやすく答えてくれる。さすがパソコンのプロだ。
とはいえ、将棋のことは知らない店員Bさん。私の希望を叶えるため「将棋、藤井、高性能パソコン」など、店内のパソコンから検索しまくる。それを一緒に眺める私。ちょっと滑稽である。
話す相手を間違えているよ…帰り際、店員に言われた一言
あ、まずい。その記事をスクロールすると藤井竜王と自分のツーショット写真がある。私が棋士だと気づかれるかも知れない。
「このスペックに興味を持たれるとは。かなり将棋がお好きなんですねえ」
全然気づかれなかった……。
こうしてはじき出された値段。妥協しない場合、渡辺名人のものと同じく約130万円と判明した。
「ハハハ」
「ハッハッハ」
現実味がない値段に売る側も買う側も思わず笑い出す。見積書をコピーして手渡してくれる店員Bさん。帰り際に言う。
「お客様、これをご購入されれば藤井プロの気分になれますよ」
店員さん、きっと殺し文句なんだろうけど、話す相手を間違えているよ……。
「藤井プロに会ったら聞いておきますね」
去り際に呟く私であった。
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このエッセイは『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)に収録されています。週刊文春連載を待望の単行本化。藤井聡太とのエピソード満載、先崎学九段との対談「藤井聡太と羽生善治」も特別収録して好評発売中です。