次々とタイトルを奪取し、将棋界を席巻する天才・藤井聡太。その師匠である杉本昌隆八段が、瞬く間に頂点に立った弟子との交流と、将棋界のちょっとユーモラスな出来事を綴ったエッセイ集『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)。

 その中の一篇「『お年玉』問題」(2022年1月13日号)を転載する。

(段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)

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一門の女流棋士、中澤沙耶女流二段(左)・室田伊緒女流二段(右) ©細田忠/文藝春秋

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将棋連盟の新年行事「指し初め式」

 2022年が始まった。今年も本エッセーを宜しくお願い致します。

 新年といえば何となく立ててしまうのが1年の目標。私は昨年、学生向けのコラムで「(将棋以外の)本を百冊読む」という目標を掲げたが、結果は半分にも満たなかった。あ、文春は毎週読んだぞ。合わせて達成ということにしよう……。

 ちなみに(このエッセーを書いているのはまだ年末だ)2022年の目標は現時点では未定である。

 本誌発売は6日。ちょうど仕事始めの方も多いことだろう。私たち棋士の仕事始めは公式戦だが、将棋連盟の新年の行事に1月5日の「指し初め式」がある。

 1年間の幸福や健闘を祈念し、1局の将棋を棋士や関係者らが一手ずつ指し継いでいく伝統行事。つまりみんなで交代で指すリレー将棋のようなものである。

座った棋士2人が手数を数えている光景が微笑ましい

 指し手に制約はないが、やはりお正月なので、勝敗が決するまで指さないことが暗黙の了解である。

 なおこの指し初め式は東西で少しやり方が違い、東京は一つの将棋盤で一手ずつ、関西は沢山の盤を使って数手ずつ指す。同時に多人数が指せる関西は効率的だが、それ故にちょっとしたハプニング? もある。

「この局面、どっちの手番なのかね? 手数が進みすぎて分からんなあ」

 対局者2人が同時に次の人に交代した場合、そんなこともあるのだ。

 真剣勝負でないとはいえ、新年早々二手指し(反則)は縁起が悪い。座った棋士2人が手数を数えている光景はちょっと微笑ましい。