次々とタイトルを奪取し、将棋界を席巻する天才・藤井聡太。その師匠である杉本昌隆八段が、瞬く間に頂点に立った弟子との交流と、将棋界のちょっとユーモラスな出来事を綴ったエッセイ集『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)。

 その中の一篇「パソコンショップでの攻防」(2022年5月26日号)を転載する。

(段位・肩書などは、誌面掲載時のものです)

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杉本昌隆八段 ©文藝春秋

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パソコンの買い替えを藤井竜王に相談

 私たちの仕事道具は将棋盤と駒だが、現代はそれとは別に欠かせないものがある。研究用のパソコンだ。

 DL(ディープラーニング)系の将棋ソフトが形勢判断に優れているそうで、従来のものより評価が高い。藤井聡太竜王がそれで研究をしているとのことで、注目度は高いのだ。

 起動させるためには高性能パソコンが必要で、これがかなり値が張る。昨年、渡辺明名人が購入されたパソコンは約130万円だとか。

 実は私、長年使っているリーズナブルなパソコンの買い替えを検討しており、昨年から藤井竜王に相談していた。

地元のパソコンショップに出向く

「DL将棋が使えるPCを探していて。金に糸目はつけないから」

 弟子の前でつい見栄を張ってしまうのは師匠の性。後日、彼からメールが来る。

「〇〇が一例です。カスタマイズで……(以下略)」

 丁寧な説明がビッシリ。素晴らしい弟子だ。ん、思ったよりグレードが低いぞ。暗に(師匠には最上位のパソコンは使いこなせませんよ)と言っているのか? いや、私の財布に優しいものを選んでくれたと思おう。

 日を改め、地元のパソコンショップに出向く私。

「将棋研究用に知人(藤井竜王)に勧められて。最上位機種の見積もりも知りたいです」

 ちなみに自分の素性は明かさない。