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『21世紀の資本』著者、トマ・ピケティが考える“格差の問題”「所得格差のばらつきを『自然』の要因に帰すことは…」

『自然、文化、そして不平等——国際比較と歴史の視点から』

source : 翻訳出版部

genre : ライフ, 社会, 経済, マネー

note

 アパルトヘイトの負の遺産を受け継ぐ南アフリカ共和国をはじめ、アフリカ南部は全体的に不平等だ。南米も全体として富の格差が大きい。これはスペインの植民地だったこととその後の政治体制と関係があるだろう。北米も人種差別による不平等が残っている。一般に、不平等の状況には植民地時代の負の遺産が色濃く認められる。

 一方、中東のような地域も不平等の度合いが大きいが、こちらは過去の人種差別や植民地支配とは関係がない。原因は現代にあり、とくに石油の利権が大きい。石油の利権が莫大な金融収入につながり、その分布は極端に偏っている。以上のように、不平等の現在地にいたるまでには古い要因と新しい要因がそれぞれに異なる論理に従って作用してきた。

『自然、文化、そして不平等——国際比較と歴史の視点から』(文藝春秋)

数字が意味するものは

 所得格差を示す指標は、図2を見るとより衝撃的だ。図2には、下位50%の所得がその国の所得全体に占める比率を示した。ここでもまた、数字の意味を意識する必要がある。

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【図2】下位50%の所得がその国の所得全体に占める比率別の世界地図(2022年)

 完全に平等な社会では、下位50%の所得が全体に占める比率は50%になるはずだ。対照的に完全に不平等な社会では、下位50%はまったく所得がないことになる。実際には、最も不平等な国(たとえば南アフリカ)では56%、最も平等な国(またしても北欧である)では20~25%だった。50%に達することはまずない。

 下位50%の所得が全体に占める比率が25%だということは、下位50%の平均所得はその国の平均所得のほぼ半分だということを意味する。これはたしかに格差の存在を意味する。しかし、下位50%の所得が全体に占める比率が5%の場合には、彼らの平均所得はその国の平均所得の10分の1になるのだから、これに比べればはるかにましと言えるだろう。

 全体として、ここにも状況に大きなちがいがあることに注意してほしい。ある国の国内総生産(GDP)や平均所得にばかり注目していると、その社会における社会集団の生活状況の実態を完全に見誤りかねない。