世界的ベストセラー『21世紀の資本』の著者、トマ・ピケティ。『自然、文化、そして不平等——国際比較と歴史の視点から』(文藝春秋)では、「格差」について考察している。ここでは本書を一部抜粋して紹介。所得格差が最も少ない地域、最も多い地域はどこなのか。

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 では、所得から始めよう。ここでは、上位10%の所得がその国の所得全体に占める比率という比較的単純な指標を見ていく。

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 完全に平等な社会では、定義からして所得上位10%は人口の10%を占め、その所得が全体に占める比率も10%になるはずだ。対照的に完全に不平等な社会では、上位10%がすべての所得をさらってしまい、全体に占める比率は100%になる。もちろん、現実はこの両極端の間のどこかにある。

 図1には、上位10%の所得がその国の所得全体に占める比率を5段階に区分して示した。比率が最も低い、すなわち平等に近いのは北欧で、20~30%だった。最も高いのはアフリカ南部で、この地域には比率が70%に達する国もある。この図を見るだけでも、不平等の度合いに大きな差があることがおわかりいただけよう。

【図1】上位10%の所得がその国の所得全体に占める比率別の世界地図(2022年)

 世界を俯瞰して、所得格差が最も小さい地域はどこで最も大きい地域はどこかを見ようとしたら、同じ地域内でも大きなばらつきがあることにまず気づくだろう。

不平等の現在地にいたるまでの「古い要因と新しい要因」

 たとえば南米では、アルゼンチンの所得格差はブラジルやチリより小さい。この国の社会・政治の歴史や、1943年のクーデターを経て46年に大統領となったフアン・ペロンの下、近隣国より筋の通った社会保障重視の国家建設に着手したこととおそらく関係があるのだろう。ただし地域によっては、全体として不平等なところもある。