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『21世紀の資本』著者、トマ・ピケティが考える“格差の問題”「所得格差のばらつきを『自然』の要因に帰すことは…」

『自然、文化、そして不平等——国際比較と歴史の視点から』

source : 翻訳出版部

genre : ライフ, 社会, 経済, マネー

note

平均所得だけを見ていると、抜け落ちてしまうこと

 というのも平均所得が同じだとしても、下位50%の所得が全体に占める比率は、所得分布によって大きなばらつきが出るからだ。それは最大で5倍にもなる(ごく単純化すると、南アフリカでは所得全体の5%、スウェーデンでは25%である)。

 こうしたわけだから、貧困の推移を知りたいときに全体像を見ずに平均所得だけを見ていると、たくさんのことが抜け落ちてしまうことになる。

©Thomas Piketty

 こうした所得格差のばらつきを「自然」の要因に帰すことは不可能である。この所得分布を個人の才能や資質や適性のせいにするわけにはいかない。個人の才能が国ごとにまさにこの通り分布しているとしたら、驚くべきことだ。また、天然資源のせいにすることもできまい。

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 たとえば中東とノルウェーは石油を産出するが、両国の所得分布はまったくちがう。あらゆるデータからして、それぞれの社会が選んだ制度こそが不平等の度合いにこれほどのばらつきをもたらしたことはあきらかだ。

 そして制度自体を生み出したのは、社会・文化・政治・イデオロギーの歴史なのである。

自然、文化、そして不平等 ―― 国際比較と歴史の視点から

自然、文化、そして不平等 ―― 国際比較と歴史の視点から

トマ・ピケティ ,村井 章子

文藝春秋

2023年7月11日 発売

『21世紀の資本』著者、トマ・ピケティが考える“格差の問題”「所得格差のばらつきを『自然』の要因に帰すことは…」

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