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三笘薫でも、堂安律でも、長友佑都でもない…カタールW杯ドイツ戦で浅野拓磨の逆転ゴールに一番興奮していた“意外な選手”

三笘薫でも、堂安律でも、長友佑都でもない…カタールW杯ドイツ戦で浅野拓磨の逆転ゴールに一番興奮していた“意外な選手”

『浅野拓磨 奇跡のゴールへの1638日』より

2023/06/20
note

オフサイドの可能性を感じていたのがよかった

 いや。オフサイドだと相手は油断している。ゴールへ向かってトラップし、相手の前へ入ろう。右足インステップ(足の甲)で、柔らかいトラップ。得意なプレーだ。

 よし、うまく止められた。オフサイドやと思うけど……。とりあえず、このまま行ったれ! 

©JMPA

 オフサイドの可能性を感じていたのがよかった。どうせオフサイドなら、最後までやりきろうという思いだ。おそらく、僕も相手もオフサイドじゃないと確信していたら、ゴールへ向かうトラップはできなかった。

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 ドイツのDFが追ってくる。リュディガーじゃない。でも、誰なのかまでは分からなかった。慌てているようには感じない。たぶん、まだオフサイドだと思っているのだろう。難なく、半歩前に出られた。とにかく、自分とボールの間に入られてはいけない。

追ってきていたのは22歳のニコ・シュロッターベック。彼とボールの間に、浅野は自らの体を入れて、前進した。

 左から、相手が体をぶつけてくる。よし。正直、スライディングで体を投げ出すように滑り込まれた方が嫌だった。左腕でブロックして、押された力も生かして前に進める。振り切れた。 

©JMPA

GKの肩口を抜こう。決断して、シュートを打つ

 瞬間、いったん中を見た。拓実(南野)が見えた。でも、ゴール前に入るタイミングはちょっと遅れている。パスを出すにも、そのコースを切るようにリュディガーが戻ってきている。

 折り返すのは厳しい。シュートだ。

 ゴール右。角度はない。GK(ゴールキーパー)ノイアーが迫っている。ファーサイドは切られている。股下も見えていない。

 シュートコースが、完全に見えているわけではない。でも、ニア上しかない。

 キックの選択は、右足のインサイドだ。ふわりと浮かせて、GKの肩口を抜こう。

 決断して、シュートを打つ。直前にボールが、少し跳ねていたのだろう。

 右足の、くるぶしあたりに当たった。

 自分が思い描いていたよりも、威力が強く、球足の速いシュートになった。

名手ノイアーの肩口を射抜いたボールは、ゴール天井に吸い込まれていった。

 ボールの行く先はよく見えなかった。ただ、ゴールネットは確かに揺れた。シュートを打った勢いそのままに、走り抜けて、ゴール裏の看板を飛び越える。