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2018/03/03

genre : エンタメ, 読書

読者からの質問

◆これまでにスランプってありましたか? また、そういう時はどうやって切り抜けましたか?(10代・女性)

彩瀬 だいたいいつもスランプです。もうどうしようと思いながら書いています。でもずーっと考えていてもなにも出ないので、そういう時は気になっている本を読むとか、映画を観るとか、歩くとかします。1回、手を放すことが大事な気がします。

◆こんにちは。 彩瀬まるさんのアクセントが分からないので教えてください! 友達に彩瀬まるさんの話をするときに、正しいアクセントが分からず、もやもやとしてしまいます。 ちなみに、僕は倖田來未さんと同じアクセントかなと思っています(なかなか思いつかなくてやっと出てきたのが倖田來未さんでした……)。(20代・男性)

彩瀬 倖田來未(発音を確かめる)。倖田來未……? どんなイントネーションでもいいんですけれど、「彩瀬丸」みたいに、舟の名前っぽく読むことはしないでいただけましたら。

◆3歳の娘がいるのですが、子供も寝ていざ読書しよう!と思ってもなかなか頭を読書モードに切り替えできません。小さいお子さんがいらっしゃる彩瀬さんは、どうやって頭を小説モードに切り替えてらっしゃいますか? (20代・女性)

彩瀬 締切に追われている時は、子どもが寝たら否応なく、“さあ書かなきゃまずい!”と仕事モードになるんです。家事はなるべく娘が起きている間にやってしまいます。一緒に踊っているふりをしながら洗濯物を干したり、踊ってるふりして追い立てて掃除機をかけたり。娘が寝たら、コーヒーを淹れるなどして、仕事ないし本を読む時間だと完全に切り替えています。飲み物とか、チョコレートなど、自分を甘やかすものをひとつ用意しておくのはどうでしょうか。

◆彩瀬先生の繊細な文体が大好きです。ファンタジー要素のあるお話でも凄く現実味を帯びていて、それでいて仄暗く、惚れ惚れします。 ファンタジー要素のあるお話を現実チックに書くコツ、もしくは気を付けていることなどがありましたら、教えてください!(10代・女性)

彩瀬 ファンタジー要素を現実的に書くよりも、現実の話をファンタジーチックに書くという意識のほうがいいですよ。現実に自分が感じた喜怒哀楽だったり、現実社会で自分が見つけた奇妙さを、より剝き出しにするような形でファンタジーにするといいと思います。

◆自分以外の小説作品で、何が一番好きですか? また好きな作家さんは誰ですか? (30代・女性)

彩瀬 一番、一番。一番はその時によって変わったりしますよね(悩)。『黒猫フーディーニの生活と意見』という、新潮社の古い海外小説があるんです。猫が人間に飼われていて、犬と同居しながらいろんなことを考えたり感じたりする話です。それが、現実のやるせないものに対しての向き合い方が、すごく腑に落ちる小説で。同居している犬が具合が悪くなって病院に行く時に、その猫は「僕は病院が嫌いだ。でも今は僕もケージに入ってやる」といって、一緒に病院についていく準備をするんですよ。でも飼い主たちはそれどころじゃないし、犬だけ運んでいく。「どうして僕を連れていかないんだ、僕はあいつの頭の上に載って、あいつが具合悪くて落ち込んでいるなら、毛並みをなめてあげなきゃいけないんだ」と主張するんですけれど。

 私は日々の生活の中で、母親が病気で亡くなった時とか、何もできない無力さについて考えることがあったんですけれど、この本を読んで、この猫が正しい、って。何もできないけれど、何か自分はその人の傍らにいるべきだって確信することは、すごいんだなって、この本を昔読んで衝撃を受けて。それで、自分にとってすごく大事だった本というと、これが頭に浮かびます。

 好きな作家さんは、昔から、浅田次郎さん、川上弘美さん。

◆物語は、いつどのような時に作られているのですか? またご自身の体験を元に書かれているストーリーは? (30代・女性)

彩瀬 物語は、日常生活の中でなんとなく面白いものを見たなとか、あれが気になるな、というものを憶えていて。それで仕事の依頼や、編集さんとの打ち合わせがあると、「今の依頼だとあれはいけるな」みたいに思いますね。頭の中に無意識のうちにストックを作っておいて、相談や打ち合わせの中でこうしよう、と作っていくことが多いです。

 自分の体験については、シーンの細部に自分の体験を使うことは多いです。
 
◆小説家になっていなければ、どのような職業に就きたかったですか? 小説家になったきっかけは? (40代・女性)

彩瀬 もともと私は小売業からの転職組として、自分が望んで作家になったので、他の職業になりたかったという夢はないかなあ。作家になっていなかったら、たぶん元の仕事みたいなことを続けていて、新人賞に応募をしていたかもしれないし。昔、ゲームクリエイターになりたいと思ったこともありましたが、あれも一種、物語を作る仕事ですよね。でも今自分が作家として褒めてもらえている部分は、あの分野では生かせないなという予感があるので、単純な夢としてもみられなくなりました(笑)。

 中学の時に美術部に入ったら私よりも全然うまい人がいて、永遠に勝てないと思った時に別のことで人に勝てるものをと思って小説を書き始めたら、案外まわりが面白がって読んでくれたんです。あの中2の時が一番輝いていました(笑)。大学3年生の時に投稿生活を始めたんです。はじめて書いた中篇がすばる文学賞の3次までひっかかって、いけるかもと思って、その後も書いて応募していきました。

◆子供の頃、彩瀬さんはどのようなお子さんでしたか? (20代・女性)

彩瀬 気が強くて傲慢なタイプの子でした。身体が出来上がるのも早くて、運動もわりと得意で、優しいタイプではなかったです、たぶん。5歳から7歳がアフリカのスーダンで、7歳から9歳がアメリカのサンフランシスコだったんです。日本人がほとんどまわりにいない環境で、流ちょうに喋れるわけでもない英語で友達を作ってやっていかなきゃいけなくて。喧嘩とかが起こった時に、口が達者じゃないから、端的にガッと主張しなきゃ伝わらないという小学生時代を送ったので、気が強かったですね。

◆『くちなし』ではフェティシズムを爆発させたとおっしゃっていましたが、彩瀬さんにとってのフェチズムの魅力はなんですか。(30代・女性)

彩瀬 うーん、うまく説明できないけれど好きなものってあるじゃないですか、きっと。そのうまく説明できない部分を書くのが楽しいような気がします。そのフェティシズムを持っていない人が、それを読んだ時に「あ、これなかなかいいかも」と思ってくれるなど、他の人が新たな性癖に目覚めると、いいことをしたような気がします(笑)。

彩瀬まるさん ©鈴木七絵/文藝春秋

彩瀬まる(あやせ・まる)

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、デビュー。著書に『あの人は蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『桜の下で待っている』『朝が来るまでそばにいる』など。ノンフィクション作品として、東日本大震災に遭遇した時のことを描いた『暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出』がある。

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※「作家と90分」彩瀬まる(前篇)──「愛なんて言葉がなければよかった」見たことのない景色に震える短篇集『くちなし』──から続く bunshun.jp/articles/-/6366

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