みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「必要な調子の良さ」と悩むブラックマヨネーズの小杉さんに、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全3回の3回目。#1#2を読む。年齢は取材当時)

中野信子さん ©文藝春秋

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Q 仕事としての「調子にノリっぷり」を褒められる一方で、仕事仲間からは、調子に乗りすぎていると咎められます ──49歳・小杉竜一(ブラックマヨネーズ)からの相談

――今の仕事を始めてもう30年ほど経つのですが、いまだに新人のような失敗をします。ちょっと仕事が上手くいくと調子に乗ってしまい、言わなくていい事を言って場をシラケさせたり、仕事仲間から「アレはどういう意味?」とクレームが入ったり……(ちなみに、この仕事仲間はかなり細かい神経の持ち主で肌のコンディションは良くありません)。しかし、仕事の評価もその「調子にノリっぷり」を褒められたりするので、落ち着き一辺倒という訳にもいきません。必要な調子の良さも出しつつ、芯は冷静に──そんな事は出来るのでしょうか?失敗ありきで進むべきですか?

 ご相談の文章を拝読し、驚きました。

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 というのも、おそらく小杉さんは「単純接触効果」という心理効果をご存じではないかと拝察できるからです。私がしばしば小杉さんや仕事仲間の方と共演させていただいております、芸能人の人生相談を定番コーナーとした、性格的にややかたよりのある専門家ばかりが回答者として登場しているテレビ番組風に申しますと、「チン!」「はい、中野さん」「『単純接触効果』とは、『繰り返し接しているとだんだん好きになってしまう』という現象のことを指します」。

 そして、単純接触効果による好意の高まりが急速に起こるとき、「笑い」が生じるのではないか、という仮説があります。

 ごく簡単に説明しますと、ぐっと距離を詰められて、それが危険でないことが急にわかったときの感じといいますか、強い緊張が一気に解ける感じといいますか、不確定性が急速に確定へと転換されて、これは安心だ、と認知すると副交感神経が急激に活性化するので、そこで笑いという反応が誘発される。これが、笑いのメカニズムではないかと、現在の脳科学では考えられています。