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「わかりづらいボケにパッと色を塗ってくれるのは小杉や」

 この理論の応用として、実際はよく知っていることなのに、あえて不確定性を高いまま提示して、受け手にそれを想像させ、そこはかとない面白みを出す、という方法がありえます。

 情報の送り手に直接的に情報を提示されただけではつまらないものでも、情報を伝える際に「受け手が自分でその情報の不確定性を下げる」ようにするというプロセスを組み込むことで、受け手の副交感神経を活性化させるスイッチを入れることができる。そこに気持ちよさと笑いが生まれるという仕掛けです。

 小杉さんは、この短いご相談の文章の中にも、きっちりこうした構造を組み込んでいらっしゃいます。「相方」と書かないことで「仕事仲間」について読者に想像させますよね。調子にノッてるというのも、具体例をあえて書かずに、読者は想像できるから笑ってしまう。こうしたやりとりの組み立て方、言葉の使い方の小気味よさに魅せられて、業界内でもファンになってしまう方が多いのではないでしょうか。

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『週刊文春WOMAN』2023夏号

 お察しするところ、ご本業は心理学者ですか? あるいは言語学とか? まさかの脳科学?? いや学者がこんなに面白いわけがないからむしろマジシャン??

 もしご本業が学者なら、仕事仲間さんは共同研究者ですね。たしかに研究者には、お肌の調子はともかく、神経の細かい先生が多いです。大抵、ご自身のお考えを理路整然と話し始めるのですが、内容はゆっくりと想定の範囲を超える方向に向かっていき、聴いている学生たちは腹筋に力を入れて吹き出すのを堪えている。しかし最後は耐え切れずに、腹筋が決壊する、ということがしばしば起こります。小杉さんの仕事仲間さんも、まったく想定外のボケをかまされますよね。

 間髪入れずツッコむ小杉さんのことをこの仕事仲間さんは「自分の描いたわかりづらいボケにパッと色を塗ってくれるのは小杉や」とおっしゃっているとのこと。

 どんなにAIが発達しても、お二人のレベルに達することはまず近未来にはないだろうと思われます。この技を武器に、30年も活躍を続けていらっしゃるというのは、並大抵のことではないと拝察します。