みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「上司からの質問にテストされているようにな気分になる」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全2回の2回目。#1、#3を読む)
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Q 私の上司は人の名前を思い出せず、「○○をやった人、誰だっけ?」と毎日私に聞いてきます ──35歳・会社員からの相談
――部長(女性・48歳)はいつも人の名前が思い出せず、例えば、「あの俳優さんと離婚した人、誰だっけ?」「ほら、こういう発言で話題になった人」「ほら、○○監督の作品によく出る人だよ」と毎日(本当に毎日)、畳みかけるようにして私に聞きます。部下としては、次々にヒントを出されて「さて、この有名人は誰でしょう?」と上司にテストされているような気分になります。それにしても彼女はなぜ、名前は思い出せないのに、その人が何をやったかということは鮮明に覚えているのでしょうか。
記憶のしくみがどうなっているかというと、単に引き出しの中にしまっておいたものを取り出す、というだけのことではないのが厄介なところだ、といえるでしょうか。
「どの引き出し」に「何を」入れたのか、的確に迅速に取り出すためには、そのインデックスも必要になります。
このインデックスを、「メタ記憶」といいます。「自分は確かにそれを記憶している(でも中身は取り出せない)」という情報です。
あなたの上司は、メタ記憶はしっかりされているようなので、もともとは記憶力に優れていて、けっこうテストなんかも得意でいらしたんじゃないでしょうか。ただ、覚えておくものが増えていって、データベースそのものが大きくなると、メタ記憶の整理が追い付かなくなり、ご相談のような状況が生まれることもあるのです。これは人間の記憶の面倒なところですよね。
ところで、どうして名前は思い出せないのに、やったことや、その人の経験したことはすぐ出てくるのか、というのにも理由があります。