「私は自殺しようと思っています。最後に中澤さんのカレーを食べたいので、つくっていただけませんか。〇月〇日の〇時ころにお店に行きます、って電話が切れたんだけど、どうすればよいのかわからなくて……。一応、カレーをつくって待ってたんだけど、結局その人は来なかったのね。ほっとしたというか、何というか……」
事なきを得たが、中澤さんは近所の小学校などで講演をする際、このエピソードを生徒に話すようになった。すると、子どもたちからは「カレーを食べさせて説得するべき」「そんな人にカレーを食べさせる必要はない」などさまざまな声が飛び交う。リアルな体験が道徳の授業テーマになっているのだ。
重罪を犯した対象者の保護司に
カフェLaLaLaを開店させていたからこその再会もあった。その相手は元対象者で、中澤さんの20年間の保護司生活のなかで、“最も重い存在”だったという。彼がしてしまったのは重大事犯。大人に対して一切心を開かず、更生に向けた処遇が困難だとされていた。
中澤さんは収監中も仮釈放後も、何度も元少年と会って話を聞いた。そのうちに、仕事や私生活のことなどに関しては、少しずつ話してくれるようになったが、こと事件の話題になると態度が一変してしまう。
「本人は夢や希望を語っているけど、『被害者のことをどうして考えないんだろう』って言う気持ちが出てくるんです。だって被害者の親は、『息子がひどい目にあったのに、あんな軽い刑なんですか』って、法務大臣に手紙まで出していて、このままじゃ死んでも死にきれないはず。
保護司の役割は、犯罪や非行を繰り返さない手助けをすることだけど、反省してもらいたくなってしまうの。でも、そういう話を少しでもしようものなら、ばさっと会話が途切れちゃうんです」
「なんで俺が行かないといけないんですか」
「事件現場に花とお線香をあげに行こう」と言っても、返ってくるのは「なんで俺が行かないといけないんですか」という返事。中澤さんもそれ以上言葉を継げず、無理やりにでも連れていくべきなのか、保護司としてそれが本当に正しいことなのか、と葛藤ばかりが募っていったという。