資料漁りから見えた、事件の一部始終は……
情報を確認するにも、通常の事件取材のように警察署に行って事件の顛末を教えてもらえるわけではない。自力で情報収集を進めるしかなかった。
取材班がまず探したのは、当時の新聞記事だ。強盗殺人のような重大事件であれば、必ず新聞に掲載されているはずだ。
向かった先は、図書館だった。古い記事でも数十分の1に縮小撮影され、マイクロフィルムに資料として保管されていた。ただ、これを見るのは気が滅入る作業だった。
マイクロフィルムは一度に3つしか借りることができなかった。これを専門の機械にセットして、該当しそうな時期の新聞をしらみつぶしに見ていく。機械を読み進めるには、手作業で機械のハンドルを回し、読み取りフィルターに映る画面を1つひとつ見る必要がある。
フィルムの年代は検索できるが、記事のキーワードを検索することは難しく、検索できても肝心のフィルムが見つからない場合が多かった。関連しそうな記事を見つけては、その都度、図書館内のパソコンのシステム上に保存し、コピーを取りに行く。そしてまた新しいフィルムを借りる。この繰り返しだった。
初めての作業に戸惑ったが、数時間見ていると徐々に慣れてきた。そんなとき、大きな見出しを発見した。
「路上で人妻殺さる 売上金は無事 閉店して帰宅途中」
これだ!
ようやく見つけた記事には、ありがたいことに現場付近の地図や当時の写真も載っていた。今では使われないような「人妻」という表現が紙面に掲載されているのを見て、どこか時代を感じた。その後も地道な作業を続け、見つけた複数の記事などを総合すると、事件の次のような一部始終が見えてきた。
いきなり包丁で女性を切りつける残忍な犯行
Aには以前から盗癖があり、事件前にも繰り返し少年院に入っていた。少年院を出た後、岡山市内の更生保護施設である寺に寝泊まりしていたが、住職によれば、「Aは真面目に仕事を探す様子もなかった」という。その寺でAは1人の少年に出会う。
年の瀬、金に困っていた2人は、少年が働いている精肉店の売上金に目をつけた。売上金を持った店主の妻が夜道を帰るところを狙い、金を脅し取る計画を立てたのだ。少年は精肉店にあった包丁を持ち出し、顔が知られていないAに渡した。
犯行当日の夕刻、Aは店主の妻がいつも通る帰り道で待ち伏せ、見張り役の少年の合図を待った。彼女が当時4歳の息子を抱きかかえながら、急ぎ足で通り過ぎようとしたとき、暗がりから飛び出した。そしてAは包丁を突きつけ「早く金を出せ」と脅した。しかし、女性がすぐに応じなかったため、Aはいきなり女性の右首あたりを切りつけた。
女性が大声を上げ、子どもが泣き出したため、慌てたAはカバンに入った2万3000円の売上金を奪うことなく、その場から逃走。女性は刺し傷からの出血のため、亡くなった。子どもが泣きながら自宅に帰ってくる様子を、精肉店の店主である父親が発見した。
その夜、Aは逃走を続けていたが、岡山駅の待合室で夜を明かし、翌日、付近を学生服姿でうろついていたところ、警察官に捕らわれた。共犯者の少年は、直後は何食わぬ顔で事件のことを報道陣に語るほどだったが、Aが捕まると隠せなくなり、犯行を自供したという。
見ず知らずの女性を子どもの目の前で切りつける、残忍な犯行だった。