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「不敵な笑い」あるいは「うなだれていた」事件後の人物像

 ある記事によると、逮捕直後、Aは警察官からの取り調べに対して「不敵な笑い」を見せていたという。これだけ見れば、恐ろしい犯人像だ。

 一方、別の紙面では、学生服姿でうなだれている男の写真とともに、供述内容が詳しく記載されている。

 昨日の晩は、岡山駅にいたが、一晩中眠れなかった。新聞をみるまで○○さん(筆者注:被害者)が死んだのを知らなかった。お金が欲しかっただけで殺す気はなく、包丁を見せただけで金がとれると思っていたが、相手が驚かないので、これでは金がとれぬと思い、夢中で斬りつけてしまった。

 記事によれば、Aは警察の取り調べに対し「大変なことをして申し訳ない」とうなだれていたという。こちらはなんとも弱々しい。

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 しかし釈明したところで、何の落ち度もない女性に金目的で襲いかかり、さらにその子どもの目の前で切りつけて殺害したという結果は重大であると言うほかない。共犯者の少年にとっては、女性は職を与えてくれた恩人であり、恩を仇で返すような所業にすら思える。

 結果として2人には無期懲役の判決が言い渡された。このときAは21歳、共犯者の少年は19歳だった。記事によれば、「未成年者に無期懲役が言い渡されたのは戦後岡山県内ではあまり例がない」という。なお、この共犯者の少年については、現在も服役しているのか、そもそも生きているのかすら、不明なままである。

写真はイメージです ©iStock.com

ポケットに入っていた白黒の写真

 ある日、施設から連絡が入った。Aの所持品から思わぬものが見つかったというのだ。それは、古い写真だという。木村記者が社長の元に話を聞きに行った。

「どういう経緯で見つかったんですか?」

「本人がポケットに入れとったんですよ」

「どこのポケットに?」

「ジャンパーに」

 見せてもらうとそれは、白黒の写真だった。

 そこには、黒い学生服を着た男が1人写っていた。がっちりとした体つきに、むすっとした表情で、視線は正面をまっすぐ見つめている。詰め襟の、いわゆる学ラン姿。ボタンは襟元のホックまできちっと留められていて、年齢は顔立ちから10代後半ぐらいに見える。髪型は、頭のトップが少しもさっとしているが、左右は刈り上げられている。眉毛も整えられ、不精ひげもなく、清潔そうな印象だ。おそらく証明写真やプロフィール用の写真として撮影されたのではないかと思われる。

 Aにこの写真について尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

「これは私自身や。高校生のあれや」

 Aが高校に通っていたという記録はないものの、もし本当に写っているのが本人だとすれば、過去を知る上で貴重な手がかりになる。そう思ったのだが、その後はいつもの調子で「わからんな」といい、詳細までは不明なままだった。だとすれば、この写真を持って次の取材に移らなければならない。