今も変わらない、借金先送りや理由なき世襲……。作家の浅田次郎氏、映画監督の前田哲氏による対談「『大名倒産』は昔話じゃない」を一部転載します。(月刊「文藝春秋」2023年7月号より)

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「映画の極致はコメディですよ」

 浅田 映画の『大名倒産』、思い切り振り切った楽しい作品でしたよ。ちょんまげ姿の神木(隆之介)くん演じる小四郎の変顔や、「マジで〜!?」なんて叫びが秀逸で。

 前田 そう言っていただけてホッとしました。

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 浅田 前々から思っているのですが、やっぱり映画の極致はコメディですよ。映画に限らず、小説やほかのすべての表現もそう。これはもう、コメディ・フランセーズを設立したフランスの太陽王ルイ14世の時代からね。

浅田氏 ©文藝春秋

 前田 遡りますね(笑)。でも、まさに笑いの入った時代劇が作りたかったんです。時代劇に挑戦するのは初めてでしたが、ギリギリの線を狙って遊ぶというか、表現の自由度は意外と大きいと感じました。

 前田哲監督がメガホンをとった映画『大名倒産』が6月23日に封切りとなる。原作は浅田次郎氏による同名の時代小説で、2016年から3年半、本誌で連載された。主演は現在、NHK朝ドラ「らんまん」でも主役を務めている人気俳優・神木隆之介だ。

 舞台は、260年続いた江戸幕府の泰平も終わろうとする幕末。積もり積もって25万両もの借金を抱える越後・丹生山(にぶやま)藩では、ひとりの男が危機に陥ろうとしていた。名は小四郎。足軽の子として育てられた彼はある日突然、徳川家康の子孫だと告げられ、藩主として迎え入れられる。その裏には小四郎の切腹と引き換えに藩ごと「倒産」させ借金を踏み倒そうとする、先代藩主・一狐斎(佐藤浩市)の計略があった。

 実は一狐斎は小四郎の実の父。小四郎は火の車と化した藩の財政を立て直し、切腹を回避できるのか……という物語。

 浅田 スケールも壮大で素晴らしかった。

 前田 先生との約束がありましたね。「話は自由に変えていいから、テレビでは出せない、パーンと抜けたようなスケール感を出してほしい」というリクエストでした。

 浅田 試写を拝見しながら、何度も身を乗り出しましたよ。撮影は京都で行われたそうですが、お好きな方はすぐわかると思います。「よくここを使えたな」という場所が何カ所も登場します。これはみなさん、観てのお楽しみですね。

 前田 国宝をお借りしていますからね。ふすま1枚開けるのにも、ものすごく気を遣いました。でも、あの場所で撮影させてもらうことで、役者さんもスタッフも、かなりテンションが上がりましたね。

 浅田 歴史ある場所には、その場所が持つ空気がありますから。前田監督は、時代劇を撮るのは初めてだったとおっしゃっていましたね。

 前田 はい。時代劇はこの世界に入った時からの大きな夢でした。

 浅田 お好きだったんですか?

 前田 もともと父が歴史小説好きで、応接間の壁いっぱいにある本棚のほとんどが歴史小説、時代小説で埋め尽くされていました。小学生の頃から勝手に取り出しては読んでいたものですから、自然と夢というか目標になっていたのだと思います。書店で『大名倒産』を目にしたとき、引き付けられる感覚があったんですよ。浅田先生に呼ばれていたのでしょうか。

 浅田 嬉しいなあ。