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「フェラーリの我慢ぐらい、女性への不平等に比べたら」 ジェーン・スーと斎藤幸平が語る“脱成長”と“社会の下揃え”

ジェーン・スー×斎藤幸平

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コロナ禍で明らかになった不都合な真実

スー コロナ禍で不都合な真実がいろいろバレちゃいましたよね。日本でもそういう部分がありましたけど、明確に命の値段が違うというようなことは、アメリカではっきり出ていましたし。コロナ以降の話で、私が一番驚いたのは、女性向けの無店舗型風俗が流行っているということ。昼職の稼ぎが減って、空いた時間に性を売る男性が増えた。一方で、自殺者の増加率は、予想値に比べて男性より女性のほうが多かったんです。こういう社会の“下揃え”みたいなことをどうすればいいんだろうと。

斎藤 資本主義が行くところまで行ってしまっている状況ですね。いまのままだと、誰も幸せになれないと思います。必死に稼いで、いろんなものを外注して、時短のために新しい家電を買う。しかし、データで見ても家事の時間はたいして減っていないんです。お掃除ロボットがうまく掃除できるように私たちは本を動かしたりしなければならないじゃないですか(笑)。ドラム式洗濯機を買えば洗濯の回数が増える。だからいつまでたっても女性は解放されないんです。

写真はイメージ ©️AFLO

スー 女の人が1人で子どもを家で育てていくのって、かなりメンタルにくるんですよね。私はレコード会社に就職した社会人1年目の時に両親がいっぺんに倒れて、23歳で介護休職したんです。その時はやっぱり物理的に無理で。一人っ子なのに、こっちで死にそう、あっちで死にそうで、無理!って(笑)。子育ても介護も共同体で協力するってことができない限り、外注して誰かの力を借りる以外に手がない場合は必ずあります。

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斎藤 必要な人たちに必要なケアが届くようにしながら、男性の労働時間を減らし、女性が1人で子育てや介護をしなければならない状況を変えるべきです。

少しスローダウンしていく“脱成長”

スー 私は、それぞれの人が働きたいボリュームで働いて、それを楽しいと感じ、生活もできるというのが一番だと思っているんです。能力が高くてガリガリ働きたい人はそうすればいいんだけど、そこそこの能力、そこそこの意欲、そこそこの時間を使って働いている人が、そんなに生活に困窮しないという状態すら実現できていないですよね。

斎藤 社会のあり方自体を変えていくべきですが、地球環境のことも考えると、方向性としては少しスローダウンしていくということを目指さざるをえない。それが、私がかねてから提唱している“脱成長”です。

写真はイメージ ©️AFLO

スー すごく興味深い提言ですが、斎藤さんの著作の脱成長、先進国の生活を80年代前半に戻すという主張は、「それはそれで、なかなか……」と思いました(笑)。50歳の私でいうと小学校に入る前くらいの時代に戻るのかと。ずっと豊かな時代に過ごしてきたからなのかもしれませんが、どうしても「あの時代のほうがよかった」と思えなかったりもします。民主主義を前提として、格差を広げず、環境も破壊しない方法って、脱成長以外に選択肢はないものなのでしょうか。