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フェラーリに乗るのを我慢するぐらいなんてことはないはず

斎藤 ひとつの可能性は、技術革新です。多くの人は気候変動問題の解決策を、太陽光や電気自動車などのテクノロジーが切り開くと期待していますが、それではもう間に合わない段階に来ています。私が80年代前半くらいに戻すといっているのは、いま使っているiPhoneなどのテクノロジーをなくせという話ではないんです。既存の技術はある程度維持したままで、たとえば過剰なファストファッションやファストフード、この20~30年の間に急速に増えたものを考え直してみようと。

 たとえばアマゾンの配送が翌日であったり、ウーバーイーツでご飯が届いたり、いつでもどこへでも飛行機で飛んでいけたり。そこまで必要だと思えないんですよ。ウーバーイーツは取材で配達員をやってみましたけど、店から歩いて2、3分のところに住んでいる人が注文したりしていますからね。

 

スー たしかに……。

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斎藤 フェラーリに乗るのを我慢するぐらい、これまで女性に課せられてきた不平等に比べたら、なんてことはないはずです。世界のフェラーリやマセラティを全部足したらすごい台数で、それらをなくすだけでも、社会の価値観にとってはとても象徴的な意味を持ちます。高い車に乗っていることが男としてのステータス、みたいな価値観から脱却できれば、環境も平等も大きく前進できるかもしれない。

最大年収を1億円に

スー 脱成長のためにはどこから取り掛かればいいのでしょうか。

斎藤 私は、最大年収を設定すべきではないかと考えています。年収にキャップをかけて最高税率を100%にするわけです。

スー その最大年収はいくらにすべきと思いますか?

斎藤 最初は1億円とかでしょうか。年収1億円あれば、相当いろいろなことができるじゃないですか。メッシや大谷(翔平)選手は可哀想かもしれませんが、そもそもメッシに年収900億円も払えてしまう、石油王がいることが問題です。

 

text:Kosuke Kawakami photographs:Wataru Sato

ジェーン・スー

 1973年東京都生まれ。作詞家・ラジオパーソナリティ・コラムニスト。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で講談社エッセイ賞を受賞。近著に『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)など。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、TBSポッドキャスト「OVER THE SUN」、「となりの雑談」が放送中。

斎藤幸平

 1987年東京都生まれ。経済思想家。東京大学大学院総合文化研究科准教授。米ウェズリアン大学卒業。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。2018年、マルクス研究の最高峰「ドイッチャー記念賞」を日本人初・歴代最年少で受賞。著書『人新世の「資本論」』で新書大賞2021を受賞。

闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由

ジェーン・スー

文藝春秋

2023年3月24日 発売