新著『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』で、仕事と向き合い居場所を見つけた13人の人生を描いたジェーン・スーさん。その出発点には女性の働きづらさ、生きづらさに対する問題意識がありました。社会から大きな共感と賛同を集める2人の徹底討論を『週刊文春WOMAN2023夏号』から一部抜粋の上、紹介します。
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基本的に仕事は好きですけど…
スー 斎藤さんご自身は、働くことをどう考えているんですか?
斎藤 働きたくなかったんですよ、ずっと(笑)。満員電車に乗りたくなかったし、9時5時の生活も嫌だった。それで研究者になったんです。もともと本を読むのが好きで、結果的にそれを仕事にできたのは、幸福なことだと思っています。
スー ご自身の仕事が好きなんですね。
斎藤 基本的にはそうですけど、最近は働きすぎな気もするし、楽しくない仕事も増えてきました。子どもがまだ小さいので将来のことや、家のローンのことを考えると、だんだん資本主義システムに巻き込まれてきた感じはします(笑)。
スー パートナーの方は、働いているんですか?
斎藤 パートナーはピアニストなんですけど、コロナ禍もあってコンサートなどの仕事がだいぶ減ってしまったんです。妻にはもっと演奏活動をしてほしいし、私だけが働いて妻が家にいることで家事や子育てが偏っている現状を健全だとは思えない。負担がトントンになるのが理想だという話は最近パートナーとよくしています。
人にとって、家族以外の社会に必要とされることが大切
スー 男女の家事負担がトントンな社会に変わるのは、簡単なことではないですよね。以前一緒に生活していたパートナーとは、話し合いの末、掃除や洗濯などを彼が担当し、その家事労働に私が毎月対価を支払っていました。お互いの希望を叶えた形でしたが、結論からいうと、私のケースではそれですべてうまくいったとは言い難い。振り返ると、家族以外の社会に必要とされることが、人にとって大切なのかもしれません。
斎藤 家事労働に対価を払うというのは平等を担保するひとつの方法になりそうですが、金を払っているからいいだろ、となるのも問題ですよね。いまは男性中心の労働環境ですから、やはり男性のほうから働き方を変えていくべきでしょう。積極的に育休を取るとか、家事をきちんとやるとか。そのためにも私は「週休3日制」を提案しています。働き方をゆるめていくことで男性中心の社会も変わるし、環境にもいい。
スー でもバリバリ働いて、たくさん稼ぎたいという人はまだたくさんいます。
斎藤 そういった価値軸、評価軸から変えていかなければならない。いまの社会では広告業や投資銀行、いわゆるブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)の給料が高くて、そこに高学歴の人が集まっている。でも私たちは、コロナ禍でエッセンシャルな仕事の価値を再認識しました。人間が生きていくために欠かせない、互いをケアするような仕事に優秀な人たちが集まり、ケアこそがもっと評価される社会にシフトする必要があると思います。