みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「病気による障害が残り、役に立っている実感を持てない」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全2回の2回目。#1、#3を読む)
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Q 一家の主婦として家族に頼られていた私は病に倒れ、一転して足手まといな存在になってしまいました── 59歳・専業主婦からの相談
――夫とは死別、私自身も脳卒中を患い半身麻痺の後遺症が残りました。それまでは家事を切り盛りし、一家の主婦として家族に頼られる存在だったのに、一転して家族に迷惑をかける足手まといな存在になってしまったのです。私の世話をするために家族の人生も狂わせてしまったという罪悪感でいっぱいです。なぜ私は生かされているのか、自分の存在理由が見つからないのですが、これからどんな心づもりで生きていけばよいのでしょうか。
お辛いことと拝せられます。私も体調を崩しやすく、そのたびに夫に迷惑をかけているのではないかと気に病むタイプですから、お気持ちの一端を共有できるように思います。病気は不可抗力の部分が大きいですが、自分は家族に迷惑をかけてしまって申し訳ないと考える。これはあなたや私だけではなく、日本人に顕著に表れる考え方の傾向です。
私たちは幼い頃から「人様に迷惑をかけてはいけない」と教育されてきましたよね。
米ミシガン大学の研究チームが、社会心理学的な視点から中国の麦作地域と米作地域の比較調査を行っています。この調査によると、麦作地域の人に比べ、米作地域では集団主義的傾向が高い、つまり、個人の意思や利益を優先する判断よりも、集団の意思を尊重する傾向にあることがわかりました。この結果は、米づくりは麦と比べてより多くの工程数が必要で、集団で作業しなければ収穫高が上がらないため、集団の判断をより優先するようになったのではないかと解釈されています。これは中国における調査ではありますが、長らく米作地域であった日本でも集団を維持することが重視されるようになったと考えることができます。