さらに、日本は地震などの自然災害が多いですね。災害からの復興には人々との強い協力関係の構築が不可欠だったということは昔も今も変わらないわけです。このような米づくりや自然災害といった歴史的な背景から、他の人や集団を助けて迷惑をかけないようにしようという「向社会性」の高いお国柄になったのだと推測されます。
たとえば、フランスは日本とはかなり違う様相です。フランスの研究所で働いていた頃、フランス人の個人主義には驚いたものです。自分がやりたいと思ったら他人に迷惑がかかろうと構わずにやり遂げる。その代わり、他人が自分に迷惑がかかるような行動をとることに対しても寛容でした。自分勝手なのはお互い様だと考えて耐えているところもありましたが、場合によっては自分が人に頼られたり迷惑をかけられたりすることを、社会へのコミットメントの一つとして捉え、満足を感じているフシもあったのです。
面倒であっても誰かのために行動すると、その人のQOL(生活の質)を上げることにつながります。病院で「花の水やりをしてください」とタスクを与えられた患者のグループと、「花の水やりは看護師がするので、あなたは何もしないでください」とタスクを与えられなかった患者のグループを比較すると、花の世話をしたグループのほうが予後がよかったという実験結果もあります。
あなたのお世話をするということも、世話をする人にとっては喜びと充実につながるものがあるはずです。あなたのご家族はもしかしたら、ちょっと面倒だ、自分の時間をとられてしまう、などと思ったり、ときに口に出したりすることもあるかもしれません。それでもお母さんのお世話をしている時間が自分にとって宝物のように大切だと思う瞬間が必ずあります。あなたにはぜひ、世話を受けている人は世話を受けているだけなのではなく、同時に相手にとって大切なつながりや、存在を肯定する何かを与えているのだという考え方があることも知っていただきたいと思いました。
頼ることが相手の力になることがある、これを私たちは忘れてしまいがちですが、頼り、頼られることが、私たち人間の持つ社会性の基盤であることを、折に触れて思い出していきたいですね。
text: Atsuko Komine illustrations: Ayumi Itakura
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