御仮寓所を見た瞬間、私は言いようのない虚脱感に襲われた。建物にポッカリと穴が開いたような、そんな感覚だった。
こんな体験は初めてのことだった。この家の長女が、もうそこにはいないという喪失感からだろうか。
姉の出発を前にして、仲が良い佳子内親王と抱き合うシーンは、ワイドショーに繰り返し流された。別れの舞台となった玄関も、今となっては寂しく感じられた。
11月4日に死去した紀子妃の実父川嶋辰彦の喪中が影響していたのかもしれない。御仮寓所は、どこまでもひっそりとたたずんでいた。長女の入籍、義理の父の死去などが続いた秋篠宮の体調を、私は心配していた。しかし、こちらの心配をよそに彼は元気な様子だった。紺のスーツのネクタイ姿に白いマスクをした彼と歓談した。
私が、親子4人の感動的な別れの場面について話題を振ると、じつは上空を舞う取材ヘリコプターの騒音にかき消されて、お互いの別れの言葉が聞こえなかったのだと、苦笑しながら教えてくれた。
「では、皆さんが理解できたのはこれだけですね」と言いながら私は、姉妹が軽く抱き合う場面を、身振りを交えて再現したところ、彼は笑顔で応えた。
「皇室としては類例を見ない結婚」に至った反省
21年11月30日、秋篠宮は56歳の誕生日を迎えた。この日に先立って行われた記者会見で長女の結婚を振り返り、次のように述べた。
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結婚に当たって普通であれば行われている三つの行事ですね。納采の儀と告期(こっき)の儀と入第(じゅだい)の儀、この三つの行事を行わなかったことで、これは私の判断で行わなかったわけですけれども、(略)私は本来であればそれは行うのが適当であると考えています。しかし、それを行わなかったそのことによって皇室の行事、そういう儀式というものが非常に軽いものだという印象を与えたということが考えられます。
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当初、会見は20分の予定だったが、約1時間に及んだ。
会見の直前となる11月初めに会った際にも、「皇室の慣例というのは、その程度のものなのだという印象を国民に与えてしまった」と残念そうに語っていた。納采の儀などを行わず、「皇室としては類例を見ない結婚」に至った反省が、彼には強くあるようだ。
国民の幸せを常に願って、国民と苦楽を共にするという皇室の在るべき姿に対して、結婚騒動は重い問いを残した。
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