私の座っている長椅子の前にある低いテーブルの中央には、2羽の石造りの小さな鳥が置かれていた。対面には椅子が二つ並んでいる。壁には白いコブ牛が二頭描かれた日本画が飾られている。
部屋の隅には、アンモナイトのような白く丸っぽい置物があった。直径60センチほどで、年輪もしっかり見える。以前、秋篠宮から教えられたが、珪化木(けいかぼく)という植物の化石らしい。
土砂に埋もれた樹木に、長い年月をかけて地層からの圧力でケイ酸を含んだ地下水が入り込み、樹木が原形を変えずに化石化したものだという。保存状態の良いものは年輪や木の形までとどめている。その下には細長い神木のマンザカベニタニが台座として置かれていた。
秋篠宮が新婚当時住んでいた平屋の宮邸にも水槽があった。その水槽の下に置かれていたのも、今あるのと同じ珪化木とマンザカベニタニだった。私は、その部屋で何度か彼と会ったことがある。約30年前にも、同じものを見ていたはずだ。悲しいことに私にはその化石の価値がまったく分からず、記憶に留めていなかった。
珍しいものを部屋に飾っておくことに意味があると、彼から聞いたことがある。初対面の人が来た時に、部屋に珍品が置いてあれば「これはなんでしょうか?」と尋ねられ、それをきっかけに話が弾むことがあるのだという。「自分はシャイで社交ベタだ」と自認する彼らしい工夫だ。
新しく皇嗣となる秋篠宮さまの意気込み
コン、コンとノックの音がして、秋篠宮が部屋に入ってきた。私はノックの音と同時に立ち上がり彼を出迎えた。彼はスーツにネクタイ姿で、書類を持っていた。
すぐに本題に入った。新しく皇嗣となる秋篠宮の意気込みを聞きたかった。
皇嗣となって何をやりたいのか。こんなこともしたい、あんなこともやりたいという彼の抱負や決意も確かめたい。兄天皇を支えながら新しい皇室をどう盛り立てていくのか。どのような令和皇室が望ましいと考えているのか。聞きたいことは山ほどあった。
――5月から皇嗣殿下となられます。皇嗣殿下としての心構えや決意を教えてください。
「うーん」と、しばらく考えていたが、求めていた答えは返ってこなかった。