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《「おまえら記者はどうなんだ」と返す刀を持ちなさい》美輪明宏の“厳しくも愛にあふれる”金言のルーツ

2023/06/28
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エノケン「養子にならない?」

 戦前、私は長崎の花街・丸山の近くで生まれ育ちました。実家はカフェと料亭を営んでいた。店の中をうろちょろしては大人の世界で繰り広げられる人間模様に触れていましたね。親に売られてきた子や色恋沙汰を見聞きするのは日常茶飯事でした。

若かりし日の美輪氏 ©文藝春秋

 長崎は江戸時代も異国との貿易が許されていましたから、カフェにも中国人の女給さんや、ロシア革命で逃げてきたロシア人のマリーさんという女給さんがいて、国際色豊か、人種差別などありませんでした。

 そうした開かれた土地柄に加え、水商売の場というのは、国籍、性別、肩書は関係ない。当然、同性愛への目線も厳しくなく、私も「女の子みたいね、かわいいわね」と、周りからいじめられることはありませんでした。後に東京で差別というものを初めて体感したときはびっくりしましたね。

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 お店のスタッフからお客さんまでみんな可愛がってくれました。住み込みの女給さんが読み書きを教えてくれたんです。彼らの本棚にあった婦人雑誌や文学作品をみんなの前で音読すると拍手喝采。図に乗ってどんどん読み進めました。そうすると、大人の世界のいろんな毀誉褒貶が全部手に取るようにわかるようにもなりましたね。

 実家の目の前がレコード屋さん。戦前でしたからドイツやフランス映画の主題歌が流れ、毎日、美しいメロディに酔いしれました。

 隣には劇場があって劇場スタッフと顔なじみだから顔パスで楽屋に出入りしていました。そんなある日の楽屋で「かわいい子だね。君いくつ?」「養子にならない?」と、話しかけてくる演者がいる。それが、喜劇王・榎本健一さんでした。

美輪明宏さんの「私のモヤモヤ交友録」全文は「文藝春秋」2023年7月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

《「おまえら記者はどうなんだ」と返す刀を持ちなさい》美輪明宏の“厳しくも愛にあふれる”金言のルーツ

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