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ホームからの転落というと“酔っ払って…”というケースばかりが頭をよぎるけど…

 ホームからの転落というと、だいたい酔っ払っての事故が思い浮かんでしまう。しかし、それは大人のお話。体の小さな子どもにすれば、電車に乗るときにホームとのスキマに落ちてしまうケースが、少なからずあるというわけだ。

 とはいえ、対策はなかなか難しい。ホームの端っこにクシ状のゴムを取り付けてスキマを埋める対応もあるが、こと子どもの転落防止でいえば、どうしても限界がある。駅のポスター掲示などで保護者に向けた啓発も、そもそも転落のリスクを認識してもらわなければはじまらない。

「もちろん、このままで良いとは思っていませんでした、どうにかしたい。ホームがカーブしている駅も多いですし、様々な形式の車両が運行しているのも対策を難しくする。全体での駅の数も多いですから、その中で何か画期的な対策はあるのだろうかと頭を悩ませていました……」(JR西日本・羽山さん)

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“子どもにしか見えない”ところから子どもを守る方法が…

 かくのごとく、悩ましい状況が続いていた子どものスキマ転落問題。ところが、それを解決に導く可能性を持つ、ひとつの方法が思わぬところにあった。

 普通なら、子どもの危険は保護者である大人への啓発という形でアプローチするものだ。それをまったく改めて、子どもに直接訴えかける――。その目的で誕生したのが、「スキマモリ」というキャラクターである。

子どもに直接危険を訴えかける目的で生まれたキャラクター「スキマモリ」

「きっかけは、地域共生の一環で、大阪支社(当時=現在の阪奈支社)の近くにある大阪市立デザイン教育研究所と、産学連携で何かできないかという話になったことなんです。それで、安全推進室に話が回ってきました」(JR西日本・羽山さん)

 それが2021年の春。初代スキマモリ担当の平山薫さんたち安全推進室では、子どものスキマ転落の対策として、ポスターの類いをデザインしてもらおうと考えた。

「デザインというと、絵を描くというものなのかなというくらいのイメージしかなくて。でも、実際にデザイン教育研究所の宮本先生とお話をすると、どうやらそれ以上のもので、コンセプトや空間そのものをデザインします、と。それに衝撃を受けまして、もっといろいろなことができないかと進めていくことになりました」(JR西日本・平山さん)

「今まで貼っていたポスター、誰が立ち止まって見るんですか?」

 デザイン教育研究所では、学生たちが中心になってスキマ転落防止のアイデアを考えた。そのキモになったのは、「子どもたちに直接アプローチする」ことだ。そして、子どもたちの興味をひきそうな、紫色で四つ足、ひとつ目、体長は14mという奇っ怪な造形をした「スキマモリ」というキャラクターが生まれた。列車とホームのスキマに住まう、妖怪である。

 

 ただ、大人ではなく子どもたちに絞ったアプローチ、さらに好き嫌いのありそうな妖怪キャラと、デザイン教育研究所から出てきた提案は、当時の安全推進室のメンバーがすぐに採用の返事ができるようなものではなかった。

「ぼくはアリやと思ったんですが、上司はアカンって言うやろな、と(笑)。実際に反対する意見も多かった。幹部も最初はNOでしたから。鉄道会社というのは、0歳から100歳までのお客さまにご利用頂く。だから、そのすべての皆さんに信任頂けることをしなければならない。妖怪、は虫類が嫌いという人もいるわけで、どうなんだろうかと。

 

 その意見も確かにわかるんです。ただ、実際にデザインに携わった学生さんが、弊社の幹部の前で『今まで貼っていたポスター、誰が立ち止まって見るんですか?』と言ったんですよ。それで、少しずつ風向きが変わりました」(JR西日本・平山さん)