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「子どもたちに直接アプローチする」実験の結果は…

 スキマモリのデザインを手がけた学生たちを指導した、デザイン教育研究所の宮本昌彦教授は、「最初はぼくも驚きましたよ」と振り返る。

「JR西日本のみなさんたちと同じですよ。ぼくも衝撃を受けました。アメリカのガムのような色をしていて……ぼくだったら絶対あの色では塗らないですからね。これが学校を代表する絵でいいのだろうか、って(笑)。

 でも、学生たちは『これは子どもたちに届かないといけないし、絶対にわかってもらえるはず』と。色も、ひとつ目も、絶対見てくれる。他のポスターに埋もれさせちゃだめだから、という。そういう情熱をぶつけられました。確かにコンセプトは鮮やかですし、最初から子どもに届けようと言い切る学生たちの思いをくみ取って、お願いしたんです」(宮本教授)

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 つまり、学生たちの情熱がJR西日本の“社内の壁”を突破したというわけだ。とはいえ、いきなり広く展開することはできない。まずは天王寺駅で実証実験を行い、どれくらいの効果があるのかを調査した。

 ポイントは、キャラクターデザインの好き嫌いではなく、行動が変わるかどうか。実証実験で効果の検証に携わったのが、大阪市立大学(当時=現在は大阪公立大学)文学研究科 心理学教室の橋本博文准教授だ。

「子どもに直接アプローチするといっても、直接子どもの声を聞いて検証するのは難しい。なので、子どもの保護者の方にアンケートを採りました。保護者の方からみて、お子さんがどのように感じているのかを聞くという形ですね。

 実証実験では、『スキマモリ』の印象を聞いて、最初は親御さんはほとんどがネガティブ。お子さんはニュートラルな立場が多いんです。で、2週間ほど続けていくと、お子さんはポジティブに、親御さんはニュートラルかポジティブにシフトしていく。こうやってプロジェクトの意義が浸透していくならば、意味があるのではないかと」(橋本准教授)

 そもそも、小さな子どもを持つ保護者に聞いても転落防止のポスターがあることを知っているのは2割程度。つまり、ほとんど知られていない、というわけだ。まずはスキマ転落のリスクを知ってもらい、認知度を上げていく。そのために、子どもの目に留まり、頭に残りやすいインパクトを持つ「スキマモリ」はうってつけのキャラクターだった。

「スキマモリ」、一気に“東”へ

 こうした実証実験での効果の確認を経て、実際に2021年の終わり頃から本格的に「スキマモリ」が始動。駅にポスターを貼るだけではなく、実際に転落のリスクが高いホーム上に貼り付けたり、動画や絵本、グッズも販売するなど幅広く展開。できるだけ多くの人の目に留まるように心がけた。

 そして、この「スキマモリ」プロジェクトに途中から加わったのが、東急電鉄だ。JR西日本と東急電鉄。同じ鉄道会社というだけで、ほとんど接点はない。いったいどうして、東急電鉄が「スキマモリ」に参加したのか。

 

「ホームドアの整備が一段落した2021年の夏に、スキマ転落の対策を本格的に考えていたんです。ハード面での対策は時間を要するので、まずはソフト面でやるしかない。でも何ができるか……と。そんなときに、スキマモリの話を耳にしたんです。それで、まずは参考に出来ることがないか、JR西日本さんにアポイントを取りました」(東急電鉄・目黒さん)

 目黒さんとしては、最初はあくまで参考にするだけの予定だったという。しかし、JR西日本との協議の結果、「スキマモリ」プロジェクトに参画することになった。目黒さんは「社内に説明するときも、『JR西さんがやっていて効果が出ているんです』というと話が早いんですよ」と話す。