令和3年8月24日、全国唯一の特定危険指定暴力団・5代目工藤會の野村悟(のむらさとる)総裁に対し、福岡地裁は死刑の判決を下した。同時に、田上不美夫(たのうえふみお)会長に対しては無期懲役を宣告。そして令和5年1月26日、工藤會・菊地敬吾(きくちけいご)理事長に対し、福岡地裁は無期懲役の判決を下した。

 これにより、工藤會トップの野村総裁、ナンバー2の田上会長、そしてナンバー3の菊地理事長に対する第一審の判決が出そろった。野村総裁ら工藤會トップ3の検挙、一審有罪判決に繋げた福岡県警は、いかにして工藤會の「鉄の結束」を切り崩したのか。

 ここでは、福岡県警の元刑事・藪正孝氏が、工藤會捜査の内幕を明かした『暴力団捜査 極秘ファイル 初めて明かされる工藤會捜査の内幕』(彩図社)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/2回目に続く)

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トヨタ襲撃

 平成19年3月、現地本部統括管理官として工藤會対策を担当していた私は、空港警察署長に異動となった。この時も、現地本部残留を希望していたが、人事は個人の希望通りにはいかない。

 同年12月、ゼネコンの下請として小倉北区の大型工事を受注していた建設会社社長が何者かから刺され重傷を負い、翌年1月に亡くなった。再び工藤會は意に沿わない者に対する暴力を躊躇しなくなった。福岡空港を管轄する空港署長として、できることは何もなかった。捜査第四課長を強く希望していたが、翌平成20年3月、次の異動先は本部鑑識課長だった。

 同年9月15日午前9時頃、北九州市小倉南区と苅田町にまたがるトヨタ自動車九州小倉工場の警備員から、同工場の変電所設備が破壊されているとの通報があった。警察官が駆けつけると県道沿いの敷地内に設置された変電所の計器盤が損傷し、数メートル離れた地面が深さ約10センチ、直径約60センチのすり鉢状にえぐれていた。