令和3年8月24日、全国唯一の特定危険指定暴力団・5代目工藤會の野村悟(のむらさとる)総裁に対し、福岡地裁は死刑の判決を下した。同時に、田上不美夫(たのうえふみお)会長に対しては無期懲役を宣告。そして令和5年1月26日、工藤會・菊地敬吾(きくちけいご)理事長に対し、福岡地裁は無期懲役の判決を下した。

 これにより、工藤會トップの野村総裁、ナンバー2の田上会長、そしてナンバー3の菊地理事長に対する第一審の判決が出そろった。今回、野村総裁ら工藤會トップ3の検挙、一審有罪判決に繋げた福岡県警はいかにして「鉄の結束」と呼ばれる工藤會の結束を切り崩したのか。

 ここでは、福岡県警の元刑事・藪正孝氏が、工藤會捜査の内幕を明かした『暴力団捜査 極秘ファイル 初めて明かされる工藤會捜査の内幕』(彩図社)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/2回目に続く)

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潜入捜査・おとり捜査

 令和5年1月、東京都狛江市で強盗殺人事件が発生、警視庁の捜査により実行犯らが逮捕された。彼らはSNSによりルフィと名乗る指示役から指示を受け、凶悪事件の最たるものの強盗殺人を敢行した。強盗殺人は死刑又は無期懲役という最高刑が科せられる。実行犯らは、自分たちが逮捕され厳しい処罰が科せられるとの認識はなかっただろう。

 その後の捜査により、フィリピンに潜伏していた指示役とみられる男たちが逮捕された。

 SNSを利用した闇バイト、そして違法薬物の密売はますます増加している。一方、警察はこれら闇バイトや違法薬物の密売に関するSNSについては、警告メッセージを書き込むなどの対策を行っている。現状ではやむを得ない措置だが、いたちごっこの感を拭えない。

 司法取引や潜入捜査など、アメリカやヨーロッパ諸国は組織犯罪対策のため必要な捜査の武器を整備してきた。

ツイッターを使用し、大麻を密売していたグループを逮捕

 一方、我が国では、遅ればせながらも暴力団対策法や組織犯罪対策法、そして暴力団排除条例などが整備されてきた。だが、取締りを規制する刑事訴訟法などの司法手続は戦後ほとんど変わっていない。SNSを利用した特殊詐欺、更には強盗、大麻等違法薬物の密売に対抗するためには、アメリカや欧米で行われている潜入捜査等も検討の時期ではないかと思う。