証拠収集等に協力した者は刑の減刑があっても良いのでは
(1)改悛者制度
テロ対策で設けられた制度だが、1991年3月、マフィア等の犯罪組織にも拡大された。組織犯罪を行ったマフィアメンバーなどが、共犯者から離脱し、被害の発生防止に努めたり、捜査当局の証拠収集に「協力」すれば刑が減刑される。無期懲役は12年以上20年以下に、有期刑は3分の1から2分の1に減刑される。改悛者は、次の「証人保護プログラム」を受けることができる。
日本の合意制度は起訴前の被疑者、あるいは起訴され刑が確定する前の被告が対象だ。既に刑が確定した者が協力した場合の規定はない。
工藤會の一連の事件で捜査に協力し、しかも野村総裁らの公判で証言した中田好信は求刑、判決ともに懲役30年だった。工藤會の組織的事件では、取調べ段階で捜査員に事件への関与や上位者の指示を認めている者も少なくない。だが、供述調書の作成には応じない。自らの刑期を増やすだけだからだ。
改悛者制度は、全く刑に問われないのではない。上位者の指示によるものとはいえ、一連の襲撃事件のように命の危険を招きかねない行為自体は罰せられるべきだ。だが、真に反省し、より悪質性の高い上位者の指示などの認め、証拠収集等にも協力した者については、イタリアのように刑の減刑があっても良いのではないだろうか。
証人・協力者保護には限界がある
(2)証人保護プログラム
イタリアやアメリカ等にあって、我が国にはないのが、法的な証人保護プログラムだ。
改悛者や証人など、司法当局に協力して、証言等を行い、重大かつ現存する危険に晒されている者及びその家族が対象となる。警察等の保護措置のほか、氏名など身分の改変、居住地の変更、一定の経済支援も受けることができる。
野村総裁らの公判で証言してくれた元藤木組親交者のM氏は、平成19年3月、北九州市内で拳銃で撃たれ負傷している。警察の保護対象者となっているが、現在の保護対策では名前を変えたり、経済的支援を受けることもできない。
暴力団排除条例では、暴力団排除活動等により暴力団から危害を加えられるおそれが認められる者に対し、警察本部長は保護のための必要な措置を講ずることとしている(同条例第7条)。だが、そこには氏名の変更、住民票等の閲覧制限、経済的支援は含まれていない。
工藤會対策では、これまでも捜査あるいは警察活動の一環として、証人・協力者保護を行って来た。だが、そこには限界がある。