このサンマは築地に入荷する前日の10月2日、岩手県の大船渡漁港に水揚げされていた。漁港から黄金サンマを預かった東都水産の競り人で現在、同社の営業副本部長である井上篤氏は、「入荷した前日の昼過ぎに大船渡の荷主(出荷業者)から、『選別機(大きさを分ける機械)にかけたら金色のサンマが出てきた。珍しいからそちらへ送るからよろしく』と言われたが、何のことだかよく分からなかった」と打ち明ける。分からないのも無理はない。「金色のサンマ」と言われても、すぐさま理解できるはずはない。
2匹のうち1匹は「永久保存版」として剥製に
3日早朝、大量に取引されたサンマの横で、この黄金サンマは築地の仲卸を通じて鮮魚専門店の「魚耕」にわたり、荻窪本店と西武池袋店へ1匹ずつ運ばれた。井上副本部長によると、「安全性が良く分からなかっただけに、『観賞用にどうですか』といった話で仲卸へ販売した」という。最高級の魚介を取引する築地で、「観賞用として卸売された魚は、黄金サンマが最初で最後ではないか」(市場関係者)とみられている。
大・小、計2匹のうち、170グラムほどあった大きい方の黄金サンマは、荻窪本店で披露された後、「永久保存版」として剥製になって甦った。今でも、店の売り場に飾られている。今年6月中旬、同店の岡健司店長は、「当時はこんな大きなサンマがたくさん獲れて安く販売できたのだろうが、不漁の今は信じられない」と、黄金サンマの剥製が入ったケースを恨めしそうに眺めながら話した。
黄金サンマはこの2年後にも、1匹築地へ入荷している。このときは1匹5000円で取引され、その後は豊洲市場(江東区)への移転後も、入荷していない。大船渡港の関係者も「特に漁港内で話題になったことはないから、揚がってないのでは」という。