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パズーやシータではない…『天空の城ラピュタ』で宮﨑駿監督がいちばん思い入れ深く描いた登場人物の名前

source : 提携メディア

genre : エンタメ, 映画

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天空の城ラピュタ』の完成までには、どんな経緯があったのか。当初、企画書にあったのは「少年パズー・飛行石の謎」というタイトルで、悪役ムスカの野望が強く出たストーリーだった。そこからどうやって「ラピュタ」になったのか。スタジオジブリ代表取締役プロデューサー・鈴木敏夫さん責任編集の『スタジオジブリ物語』(集英社新書)より、一部をお届けしよう――。

真に子供のためのアニメは大人の鑑賞にも耐えうる

1984年12月7日に宮﨑が提出した「少年パズー・飛行石の謎」の企画書には、「あるいは空中城の虜/あるいは空とぶ宝島/あるいは飛行帝国」とほかのサブタイトル候補が並んでいる。また、煙突の上でトランペットを吹く少年の姿を描いたイメージボードが添えられていた。

写真=iStock.com/justtscott ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/justtscott

企画意図は次のように書かれている。

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風の谷のナウシカが、高年齢層を対象とした作品なら、パズーは、小学生を対象の中心とした映画である。風の谷のナウシカが、清冽(せいれつ)で鮮烈な作品を目指したとすれば、パズーは愉快な血わき肉おどる古典的な活劇を目指している。

パズーの目指すものは、若い観客たちが、まず心をほぐし楽しみ、よろこぶ映画である。笑いと涙、真情あふれる素直な心、現在もっともクサイとされるもの、しかし実は観客たちが、自分自身気づいていなくても、もっとも望んでいる心のふれあい、相手への献身、友情、自分の信ずるものへひたむきに進んでいく少年の理想を、てらわずにしかも今日の観客に通ずる言葉で語ることである。

現今の多くのアニメーションが、ドラえもんをのぞき、劇画を基盤とするならば、パズーはマンガ映画の復活を目指している。小学校の四年(脳細胞の数が大人と同じになる年齢)を対象の中心にすえることで、幼児の観客層を掘りおこし、対象年齢を広くする。アニメ・ファン数十万は必ず観てくれるので、彼らの嗜好(しこう)を気にする必要はない。そして、多くの潜在観客は、心を幼くして解放してくれる映画を望んでいる。多数の作品が企画されながら、対象年齢がしだいに上がっていく傾向は、アニメーションの将来につながらない。マイナーな趣味の中にアニメーションを分類し、多様化の中で行方不明にしてはいけない。アニメーションはまずもって子供のものであり、真に子供のためのものは、大人の鑑賞に充分たえるものなのである。