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杉元/尾形の関係を、BL的に解釈する根拠

 尾形上等兵の計略によってアシㇼパから引き離された杉元は、樺太まで追跡し遂にアシㇼパと再会するが、その際にアシㇼパの毒矢が尾形の右目に刺さってしまう(19巻188話)。殺人を犯したことがないアシㇼパに手を汚させないため、杉元は毒矢の刺さった眼球をナイフで抉り取り、尾形の眼窩から自分の口で毒を吸い出す。

『ゴールデンカムイ』19巻188話より ©️野田サトル/集英社

 前回論じたように刃物と刺青は隠喩的に男性器と女性器として解釈できるわけだが、これを拡張的に応用して尾形の右目に穿たれた穴も女性器として読むならば、杉元のこの行為はキスともクンニリングスとも理解できる。

「また無茶苦茶なことを言って」と読者の皆さんが思われるかもしれないので、英文学者イヴ・セジウィックが『男同士の絆』で行った議論を使って説明しよう。

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 セジウィックは女性を媒介することで男性二人の間の社会的な絆が強化されるメカニズムを「欲望の三角形」という概念で定式化した。

「欲望の三角形」の特徴は、男たちが女性を介することで、彼ら同士の強い絆があくまでも性的ではないことにするところにある。男たちは自分たちの間の性愛の可能性を常に否定しながら、彼らの間に強い関係性を作り出すことができるのだ。

 杉元と尾形は女性であるアシㇼパを介して因縁が絡み合っており、この点で彼らは「欲望の三角形」によって結びついている。彼ら周辺の関係を整理すると下図のようになる。

著者作成

 杉元は幼なじみの梅子の眼の治療のため黄金を求めており、それは梅子の夫であり杉元の親友かつ戦友である剣持寅次の遺志をついでのことだ。一方、尾形は露骨に父親が持っている象徴的な全能性への執着を抱えている。従って、図像的に男性器と重ね合わされる鶴見に従い、父である花沢中将が妾の子である自分を愛しているかを確認するために、母、異母弟の勇作、父花沢幸次郎を次々に殺害する。

 杉元も尾形もそれぞれ別の「女性」を介して男同士の関係を作るが、この「女性」の位置にアシㇼパが置かれることで、杉元と尾形の間にも関係性が浮かび上がる。目が梅子の病気の在処であることも考えれば、杉元の尾形の右目へのキス/クンニリングスは決定的な意味を持つ。